省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

分かりにくい写真編集用語

 先日、翻訳に困る写真用語と題して記事を書きましたが、その後 darktable のマニュアルを見ていたら、そのあたり定義が説明されているのを見つけました。とりあえず、 darktable 3.6.x の説明書 12.1.8. darktable's color dimensions (p. 238以下)
から引用します。

hue
An attribute of visual perception in which an area appears to be similar to one of the colors red, yellow, green, or blue, or to a combination of adjacent pairs of these colors considered in a closed ring. 1 Hue is a shared property between the perceptual and scene-linear frameworks.
luminance
The density of luminous intensity with respect to a projected area in a specified direction at a specified point on a real or imaginary surface.  Luminance is a property of scene-referred frameworks, and is expressed by the Y channel of the CIE XYZ 1931 space.
brightness
An attribute of visual perception according to which an area appears to emit, transmit or reflect more or less light.
lightness
The brightness of an area judged relative to the brightness of a similarly illuminated area that appears to be white or highly transmitting.  Lightness is the perceptual, non-linear homologue of luminance (roughly equal to the cubic root of luminance Y). Lightness is expressed by the L channel in CIE Lab and Luv 1976 and the J channel in JzAzBz.
chroma
The colorfulness of an area judged as a proportion of the brightness of a similarly illuminated area that appears gray, white or highly transmitting. 5 Warning: chroma is not short for chrominance, which is the color part of a video signal (the Cb and Cr channels in YCbCr, for example).
brilliance
The brightness of an area judged relative to the brightness of its surroundings.
saturation
The colorfulness of an area judged in proportion to its brightness.

Colors can be described in many different color spaces, but no matter the color space, each color needs at least 3 components: some metric of luminance or brightness, and 2 metrics of  chromaticity (hue and chroma, or opponent color coordinates).

 

翻訳してみます。

 

色相 (Hue)
ある領域が赤、黄、緑、または青のいずれかの色、または閉じたリングと考えらえるこれらの色の隣接するペアの組み合わせに類似しているように見える視覚の属性。色相は、知覚フレームワークとシーン-リニアフレームワークの両者で共有される特性である。

輝度 (Luminance)
実表面または仮想表面上の指定された点での指定された方向の投影領域に対する光度(luminous intensity) の密度。 輝度(Luminance)は、シーン参照フレームワークのプロパティであり、CIE XYZ1931空間のYチャンネルによって表される。

明るさ (brightness)
ある領域が多かれ少なかれ光を放出、透過、または反射しているように見える視覚の属性。

明度 (Lightness)

白または透過性が高いように見える、同様に照らされた領域の明るさ(brithtness)と比較して判断された領域の明るさ。明度 (Lightness) は、輝度 (luminance) の知覚的で非線形な相同物である (輝度Yの立方根にほぼ等しい)。明度は、CIELabとLuv1976のLチャネル、およびJzAzBzのJチャネルで表される。

彩度 (Chroma)
灰色、白、または透過性が高いように見える、同様に照らされた領域の明るさ(brithtness) の割合として判断される領域の色鮮やかさ (colorfulness)。注意:彩度(Chroma) は、ビデオ信号のカラー部分であるクロミナンス (Chrominance) の略ではない  (たとえば、YCbCrのCbおよびCrチャンネル)。

輝き (brilliance)
周囲の明るさから相対的に判断された領域の明るさ(brightness)。

彩度 (Saturation)
明るさ (brightness) に比例して判断されるエリアの色鮮やかさ (colorfulness)。

 色はさまざまな色空間で記述できるが、色空間に関係なく、各色には少なくとも3つの構成要素が必要である。輝度(luminance) または明るさ (brightness) の基準 (metric) と色度 (chromaticity) の2つの基準(色相と彩度[Chroma]、または補色の色座標[coordinates])である。

 とりあえず以上のように訳してみましたが、分かったような、分からないような...

 ただ、 Chroma は、Chrominance の略語ではない、と明確に書かれているので、これは先日の記述を訂正しなければなりません。要は Chrominance は (ビデオの) 色信号を指すということかと思います。但し、Wikipediaでは、Chroma は Chrominance の略語だと書いてあります*1。また、Chroma、Chrominance、Chromaticity の関連が今までよくわかりせんでしたが、Chromatisity は、色相と彩度、つまり明るさ要素を除いた色要素のことを指すようです。Wikipedia の Chromaticity の説明も、"Chromaticity consists of two independent parameters, often specified as hue (h) and colorfulness (s)" とあります。この項の日本語訳は存在しませんが、韓国語訳では、「色度 (색도)」と訳されています。「色度」という訳語が適切かどうかは疑問ですが... むしろ色要素、あるいは色彩要素とした方が良いような気がします。

 また訳語問題として、似た概念である、Luminance, Brightness, Lightness, Brilliance をどう訳し分けるのかも問題です。

 さらにこの後にいろいろなカラーチャートが掲載されていますが、次の図が理解に役立ちました。

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darktable 3.6 ユーザーマニュアル p. 242 より

 これもパッと見、分かりにくいですが、補足をつけると分かってきます。まず llightness から...

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lightness

 このチャート図の縦軸は lightness の高低の軸です。水平に、lightness が同じ値の色のタイルが並びます。上にある色タイルは lightness が高く、下にある色は低いです。同じ水平上の高さ (同じ y 軸上の位置) にある色は同じ lightness になります。

 次に、chromaです。

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chroma

 オリジナルの図では、chromaの矢印は水平方向に右側にしかありませんが、要は左右の中心がchroma 0 そして、右端もしくは左端に行くほど chroma値が高くなります。同じ x 軸上にある色タイルは同じ chroma 値になります。右と左の違いは色相の違いです。中心に寄った部分がchromaの低い部分、端に近い部分がchroma の高い部分です。以前論じたように、chroma は saturation の高さに lightness の高さを加味して chroma の高低が決まるのがわかると思います。つまり、同じLightness なら (同じ水平位置なら) saturation が高いほど chroma が高くなり、同じ saturation (同じ点線に乗るタイル) なら、Lightness が高いほど chroma も高くなります。中心から上に伸びる垂直線上には、saturation 0 の色 (ニュートラル色 / 無彩色) が並びます。この部分だけは、saturation は 0 なので、いくら lightness が上がっても chroma は上がりません。

 次は saturation を見ます。

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saturation

 saturation ですが、中心の垂直線が、saturation 0 の領域です。また、中心の垂直線と、chromaの水平の矢印線が交わる点が、RGB値が 0 で揃うブラックポイントです。垂直線を中心に、左右に円弧状の矢印を書き込みましたが、矢印の方向に扇状に、左右に向かって saturation の値が高くなります。中心の垂直線に近いほど値は低くなります。そして、黒いタイルの中心から放射線状の点線が伸びていますが、この点線の線上にあるタイルは、明るさ(Lightness, brightness)は異なっても、いずれも同じ saturation の値を持つタイルです。このことから saturation は chroma とは異なり、全く lightness (や brightness) とは関係なく、色相それ自体の彩度を示す指標であることが分かります。色が明るくても暗くても同じ色相であれば、つまり3原色の比が同じであれば、同じ saturation となります。

 最後は、brilliance (または brightness) です。この図では、brilliance = brightness として示されています。これは、新たな図の掲示を省略しますが、要するに同じ saturation の色の中でどれほど明るいか、という概念が brilliance / brightness である、ということです。さらに言うと、その明るさを放射線に沿って原点 (ブラックポイント) からの距離で測った値が brightness そして、周辺の色からの相対的な距離 (違い) で測った値が brilliance ということになるようです。lightness と  brilliance / brightness は、当然比例しますが、lightness が、色相横断的な概念であるのに対し、brilliance / brightness は、あくまでも特定の saturation / 色相における明るさ概念という点が異なります。また saturation 0 の場合のみ、lightness の値と brightness の値は一致するということになると思います。

 これにより、画像処理ソフトにおける、chroma, saturation, lightness, brightness, brilliance の関係は明確に説明されました。ただ、これも以前指摘したように、CIEによる (色彩学上の) chroma の定義と ここでの chroma の定義は、重なるところはあるものの、異なります。CIE的にはあくまで物体そのものが持つ色に関する概念 (厳密に言えば、物体の持つ特定のスペクトラムの光に対する反射率) であり、反射光による色の世界である写真とは関係ない概念のはずです。そして colorfulness は、chroma, saturation をも包括した、一般概念としての色の鮮やかさ、ということになりそうです。また、lightnessは、 luminance の立方根に近い値とありますが、おそらく、luminance に対し知覚的ガンマ補正を行ったものが lightness ということではないでしょうか。

 因みに、GIMPでは、Lightness を Lightness = ½× (max(R,G,B) + min(R,G,B)) で定義しています*2。さらに Luminance を 知覚特性を考慮して、Luminance =  (0.22 × R) + (0.72 × G) + (0.06 × B)  で定義しています*3。しかし、darktableでの Lightness の定義は、"Lightness is the perceptual, non-linear homologue of luminance" とあるので、GIMP と darktable では、Lightness と Luminance の位置づけが逆になっているかもしれません。計算式も異なっていると思います。darktable のマニュアルでは、 Lightness は Luminance の立方根の近似値とあるので、あるいは GIMP の Lightness が darktable の Luminance で(つまりリニア色空間における明るさのValue [値])、それに対し知覚的ガンマ補正を行った色空間における明るさのValueが、darktable の Lightness であるのかもしれません。なお、darktableのマニュアルでは、Luminosity という言葉は使われますが、明確な定義があって使われているものではありません。

 因みにGIMPには luminance に似た値としてLuma という値もありますが、これはGIMPの luminanceがリニアRGBで計算された値なのに対し、sRGB式知覚的ガンマ補正を加えたRGB空間において、同様にウェイト付けして計算した輝度値になります。なお、Wikipedia のLuma の説明では、GIMPの luminance を relative luminance としています。さらに言うと、GIMPはVer. 2.8 まではこのluminanceをluminosity (= 0.21 × R + 0.72 × G + 0.07 × B) と表記していました*4。式も微妙に異なっています。おそらく2.8までは用語をPhotoshopに準拠して使っていたものを、2.10 でリニアワークフローが付け加えられた際に、リニアベースの輝度と、非リニアベースの輝度(Luma)とを区別する必要が生じて、LuminosityをluminanceとLumaに表記分割したのではないかと...。ですのでGIMP2.8ではLumaという言葉は出てきません。ということは、2.8以前のLuminosity とは 実質 Luma のことだったということです。またおそらく同じ「輝度」を指す言葉であっても、luminosity という言葉のほうがより一般的な用語であり、luminance という言葉はよりテクニカルな用語ではないかと思います。darktableのマニュアルでも、luminosity  という言葉は定義なく使われています。

 ImageJではluminance に weighted (GIMPのluminanceに相当)と unweighted(GIMPのlightnessに相当) がある、としています。ImageJ では lightness という用語は使われていないようです。lightnessに相当するものとしては、RGBやGrayscaleのValue(値)ということになるかと思います。

 いずれにせよ、lightness, luminance, luminosity, Luma という用語は、実際の計算式は異なるにせよ、同じ現象(明るさ)を示す指標であり、また用語の使い方はソフトウェアごとでも異なったり入れ替わりうる (但し、Luma のみは定義は明確)、という点を押さえておくことは重要かと思います。それらは Grayscale の Value の求め方、定義に関する用語ということもできると思います。また、brightnessやbirilliance も似た現象を指しますが、こちらは、特定の saturation を前提としたときの明るさ、ということになるでしょうか。

 また、darktable のマニュアル (p. 245) には次のような記述もあります。

"Many applications, including darktable, call any settings that affect chroma “saturation” (for example, in color balance, “contrast/brightness/saturation”). This is a symptom of software trying to be accessible to non-professionals by using a common language. This is misleading, since saturation does exist and is quite different from chroma. In addition, many video specifications improperly call chroma “saturation”. Whenever darktable reuses such specifications, it uses the incorrect term from the specification rather than the proper color dimension term."

 おいおい... つまり、本当は chroma と表示しなければならないところを、多くの画像処理ソフトでは、一般ユーザに分かりやすくするために、不正確に saturation と表示しているところがあり、それは darktable も例外ではない、ということです。

 日本語使いである我々には、chroma と saturation のどちらが分かりやすいか知ったことではありませんが、どうやら英語話者には、saturation と書いた方が直観的にわかりやすいようなのです。ともあれ、これでネットを探すと、chroma = saturation などと書いた説明が出てくる理由がようやく分かりました。いやはや何とも参ります。

 ともあれ、これらの用語 (chroma, saturation, lightness, brightness, brilliance, luminance, luminosity, さらに chrominance, chromaticity, colorfulness) をなんと日本語に訳し分けるべきか... ちょっと頭が痛いです。さらに、illuminance (照度) なんていうのもあります。

 chroma, saturation に関しては、やはり彩度(chroma), 彩度(saturation) と英語併記にするか、彩度(クロマ), 彩度(飽和度) とするか、とも思いますが、chroma と表記すべきところを、一般の人に分かりやすいように saturation としているケースもある、とあるところを見ると、saturation を一律 彩度 にして chroma の時だけ 彩度(クロマ) と併記すべきかとも思います。colorfulness は、chroma, saturation をも包括した、より一般的な概念、言葉として使われているようなので、色の鮮やかさ あたりでしょうか。

 chrominance は 色信号 もしくは、ARTなどで色のノイズにこの用語が充てられているので、場合によっては 色xx で決まりかと思います。chromaticity は、どうも専門用語としては色度が定訳のようですが、一般には分かりにくいです。すでに述べたように 色彩要素 あたりが良いのではないかと思いますが、迷います。

 lightness, brightness, brilliance, luminance, luminosity グループも明るさ、輝き... といろいろ考えられますが、日本語の訳語が足りません。lightness は明度 でほぼ良いような気がします。brilliance は 輝き を充ててよいでしょうか。残りの3つに、明るさ 輝度のどれを充てるべきか... 明るさ、とすると一般概念なので、輝度 にそれぞれ ( ) で英語併記でしょうか... 

 

 ともあれ、英語表記なら正確に理解できるという訳では断じてありませんが、日本語訳はさらに混乱に拍車をかけかねないとは言えそうです。

 なお、 darktable のユーザマニュアルは (バージョンアップごとにだんだん分厚くなりますが)、画像処理のテキストとしてそこそこ使えることが分かりました。読み込む価値がありそうです。

 

*1:なお、Chrominance の項の日本語版はありませんが、韓国語版では Chrominance に対して色差 (색차) との訳語が充てられています。

*2:以下参照。

 

docs.gimp.org

*3:なお、ITU-BT.709では、グレースケールを作成するとき、0.2126 x R + 0.7151 x G + 0.0722 x B のウェイトで作成することを推奨しています。また、アナログテレビでは、0.299 x R + 0.587 x G + 0.114 x B が使われていました。これらの数値は、いずれもリニアな色空間を前提とし、知覚的ガンマ補正を掛ける際は、この後に掛けることが前提とされています。[出典:  Wilhelm Burger、 Mark J. Burge, 2016, Digital Image Processing: An Algorithmic Introduction Using Java 2nd Ed., Springer: pp. 304-5]

*4:

docs.gimp.org