省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

ARTでの、英語 - 日本語 - 韓国語 写真編集用語の翻訳語について

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 ART1.11安定版から正式に韓国語翻訳が付きましたが、実は私が翻訳をつけました。日本語と韓国語は似ていますし、また写真用語の日本語からの影響も大きいだろうと思って翻訳してみたのですが、なかなか良い経験でした。韓国の方で気づく方がいらっしゃるかどうか分かりませんが、しかし RawTherapee は韓国語非対応なので、少しは意味があるかとも思います。

 大体写真用語の翻訳語は日韓辞典などを見ても良く分かりません。日本語を直訳していいのかもはっきりしません。通常、辞書は、専門用語を前提としていないからです。そこで、韓国語版のAdobe Lightroomの公式Webマニュアルを見たり、カメラの純正ソフトを韓国語でインストールして、それがどう翻訳しているかを見たり、あとは韓国人の写真マニアの方がWeb上で写真編集技法をどのような用語で解説しているかを参考にしながら翻訳してみました。

 韓国語を翻訳している過程で、韓国語に翻訳するのに困る日本語文もいろいろ発見しました。結局何を言っているのかよくわからずに、とりあえず英語を日本語の音訳に置き換えてごまかしている部分は、何と翻訳したらよいのかよく分からないので、改めて何を言っているのか原文に戻って、あるいはARTを操作しながら一つ一つ検証していかなければなりません。それが結局、日本語訳の全面見直しにもつながりました。

 韓国語翻訳作業を通じて、ARTの日本語訳の大幅ブラッシュアップにもつながったかと思います。したがってバージョン1.10より1.11の日本語の方がかなり良くなっているはずです。

 

 という訳で以下、個人メモとして、今回翻訳した写真用語の英語、日本語、韓国語の対訳を掲げます。

 

英語 日本語 韓国語
Amount 適用量 적용량
Apature 絞り 조리개
Area mask エリアマスク 영역 마스크
as Shot カメラ撮影時設定 사진기 촬영시 설정
Biometric Passport 顔認証パスポート用 얼굴인식 여권용
Black point compensation ブラックポイント補正 불랙 포인트 보정
Blade 絞りの羽根 조리개 날
Blur ぼかし(Blur) 흐림
Bounding Box 表示最大領域 표시 최대 영역
Brush Mask ブラシマスク 브러시 마스크
Channel Mixer チャンネルミキサー 채널 믹서
Chromatic Aberration 色収差 색수차
Chromaticity 色度 (Chromaticity)
色彩要素ぐらいの方が適当?
색도
Chrominance 色信号 / 色ノイズ 색차 / 색상 노이즈
Clipping control クリッピングコントロール 클리핑 컨트롤
Coarseness 粗さ 거칠기
Color Equalizer カラーイコライザ 객 이퀄라이저
Color Management カラーマネジメント 색 관리
Color propagation 色の波及 색 파급
Color similarity mask 類似色マスク 유사 색 마스크
Color/Tone correction カラー/トーン補正 색/톤 보정
Contrast コントラスト 대비
Corner boost 角の増幅 모의 증폭
Crop 切り抜き 잘라내기
Crop factor クロップ係数 잘라내기 계수
Custom カスタム 맞춤
Darkframe ダークフレーム 장시간노출 노이스 제거
Decay 衰減(Decay) 감쇠
Detail ディテール 디테일
Detail scale ディテールの尺度 디테일의 척도
Distorsion 歪曲収差 왜곡수차
Edge 輪郭 경계선/ 윤곽
Eraser mode 消しゴムモード 치우개 방식
Exposure 露出 노출
Exposure compensation 露出補正 노출보정
False color suppression 偽色抑制 저짓 색상 억제
Feather 境界のぼかし/ぼかし(Feather) 경계 흐림
Film Grain フィルム粒状効果 필름 효과
Film simulation フィルムシミュレーション 필름 시뮬레이션
Flatfield フラットフィールド 센서의 오점 그늘 제거
Frame フレーム/枠線 프레임
Gain 増幅度(Gain) 증폭도(Gain)
Gamma ガンマ 감마
Gaussian ガウス (ぼかし) 가우스 흐림
Geometric ジオメトリック 기하확적 왜곡 교정
Geometry ジオメトリ 기하확적 왜곡 교정
Glow グロー効果 광선 효과
Golden triangles 三角構図 삼각구도
Graduated Filter 減光フィルター 그라데이션 필터
Grid 格子 격자
Guided ガイド付き 가이드 있음
Halo control ハロ抑制 하로 억제
Hardness 硬さ(Hardness) 경도
Harmonic mean 調和平均 조화평균
Haze Removal 霞除去 안개 제거
Highlight ハイライト 하이라이트 영역
Hue 色相 색상 / 색조
Input Profile 入力プロファイル 입력 프로파일
Iterations 反復 (Iterations) 반복
L*a*b* adjustment L*a*b* 調整 L*a*b* 조정
Latitude ラティテュード 보정 관용도
Lens blur レンズぼけ効果 렌즈 흐림 효과
Lift 引上げ 인상
Lightness 明度 밝기
Local contrast ローカルコントラスト 부분 대비
Log Tone Mapping 対数トーンマッピング 로그 톤 매핑
Luminance 輝度ノイズ 광도 노이즈
Luminance 輝度 휘도
Mask マスク 마스크
Mid Tone ミッドトーン (中間トーン) 중간 톤 영역
Motion blur モーションブラー 모션 블러 / 흐림
Neutral color ニュートラルカラー / 無彩色 뉴트럴 컬러 / 무채색
Noise reduction ノイズ低減 노이즈 감소
Non-local means 非局所平均 비국소평균
Perspective correction パースペクティブ補正 원근 뒤틀기 보정
Pivot ピボット 비벗
Posterization ポスタリゼーション 포스터화
Prametric パラメータ指定マスク 매개 변수 지정 마스크
Preset カメラプリセット 시진기 프리셋
Primaries correction 原色補正 원색 보정
Radius 半径 반경
Radius 太さ 긁기
Radius increase 半径を増やす 반경 증가
Range 範囲 범위
Reference exponent 基準指数 기준지수
Reguralisation 遷移の円滑化 변화의 원활화
Rendering レンダリング 렌더링
Residual contrast 残差コントラスト 잔여 대비
RGB Curves RGBカーブ RGB 곡선
RL Deconvolution RLデコンボリューション RL 역 합성곱
Saturation 彩度 (Saturation) 채도 (Saturation)
Shadow シャドー 어두움 영역
Sharpening シャープニング 선명하게 하기
Shear 剪断(Shear) 전단(剪斷)
Smoothing スムージング 매끄럽게 하기
Strength 強さ 강도
Texture Boost テクスチャ増幅 텍스처 증폭
Threshold 閾値 임계 값
Tint 色偏差 색편차
Tint 単色カラー 단색
Tone curve トーンカーブ 톤 곡선 / 톤 커브
Tone equaliser トーンイコライザー 똔 이퀄라이저
Transparency 透明度 투명도
Unsharp mask アンシャープマスク 안샵마스크
Vibrance 自然な彩度 바이브런스
Vignette Filter ビネットフィルター 비네팅 필터
Vignetting 周辺光量 주변광약
White Balance ホワイトバランス 화이트 밸런스
Working Profile 作業プロファイル 작업 프로파일

 

 気付いた点としては、chrominanceは韓国語では色差 (색차) がどうも定訳のようです。偽色は、저짓 색상 (直訳すれば ニセ色相)、ジオメトリは、기하확적 왜곡 (直訳すると、幾何学的歪曲)、パラメータは매개 변수 (直訳すれば、媒介変数)、パースペクティブ補正 (あるいはパース) は、원근 뒤틀기 보정 (遠近傾き補正)と、我々が外来語で済ましているところを、なるほどと思わされます。輝度は直訳の휘도 よりも광도(光度) として使われるのが普通のようです。閾値は、임계 값 (直訳で臨界値)、スムージングは、매끄럽게 하기 (滑らかにする)、Latitude は보정 광용도 (補正寛容度)。なるほど。

 逆に、Vibranceは日本では「自然な彩度」と訳されますが、韓国語ではそのまま外来語の音訳で바이브런스 (バイブランス)。ただこのようなケースは少ないです。

 また、ART / RawTherapeeの特有の機能などは、定訳が分からず、えいやっで私が翻訳語を決めてしまったのもあります。例えばregularizationですが、こちらのディスカッションを見て、意訳で「遷移の円滑化」(韓国語では병화의 원활화 [変化の円滑化])と訳しました。元々は数学用語で日本語だと「正則化」というのが数学的には定訳のようで、また機能名もそのまま数学処理からきているようですが、これだと何の意味かよく分かりません。A. Griggio氏も、いい名前が思いつかなかったので... と言っています。要はトーンなどの変化が急激になったり凸凹するのをならすということのようなので、このように訳しました。

 

 また、翻訳に困ったものには、こんなものがありました。

Bounding box

 これが一体何なのか分からなかったのですが、結局以下の図のようなことらしいです。

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点線の部分が Bounding box

 要は、オブジェクトがあるとするとそれを四角形で囲んだ最大領域が Bounding boxになるようです。最初は英語をそのままカタカナにしてごまかしていましたが、ここでは最終的に表示最大領域と訳すことにしました(日本語ファイルを修正しました)。

 Chroma と Saturation の違いについては別稿に書きました。韓国語でも紛らわしさは一緒です。

 また韓国語で、Hue と Color tone をどう訳し分けるかが問題で Hue を색상 色相、(Color) tone を색조 色調 とするサイトもあれば、その逆を主張するサイトもあり... NikonのNX Studio の韓国語訳では Hue を色調としていました。またPhotoshopなど Adobe製品も同様のようです。とりあえず、ARTの訳では、색상にしてみましたが...

 なお、改めてAdobeの韓国語公式マニュアルページを確認したところ、Adobe製品で 색상 色相 が使われるのは、색상 견본 (色相見本 = カラーパレット), 색상 피커 (色相ピッカー = カラーピッカー), 색상 일치 (色相一致 = カラーマッチング), 색상 균형 (色相均衡 = カラーバランス), 색상 모드(色相モード = カラーモード) などです。ほぼ日本語で「カラー (color)」が外来語そのまま使われるところの訳語として使われています。おそらく韓国語の翻訳は日本語訳を参考にしていると思いますので、そのあたり意識して使われているのではないかと思います。そしてやはり Hueの訳語としては색조 色調が使われているようです。個人的には、明度(Lightness)要素を含まないものを色相、明度要素を含んだもの、つまりChromaを配慮したものを色調と呼び分けたほうが良いように思いますが、しかし、次回から訳語を変えたほうが良いかもしれません...

 ちなみに、韓国語で通常の色という意味では、색(色/ Saek), 색깔 という語がつかわれています。색は漢字の色で、깔 (kkar)は、韓国語の固有語で色という意味ですが、両方を合わせて色の意味で 색깔 (Saekkar セッカル)と使われています。

 さらにまた、紛らわしいのは、FeatherとBlurで、日本語だと両方とも「ぼかし」「ぼけ」としか訳しようがありません。しかたがないので「ぼかし(Feather)」と「ぼかし(Blur)」にしました。あるいはFeatherの方には、「境界のぼかし」と訳をつけたところもあります。Featherというのは、例えばマスクの範囲を指定するとき、マスクの境界線が徐々にぼけるようなぼけのことをFeatherと言って、画像全体にぼかしがはいるようなぼけであるBlurと区別するようです。

 韓国語ではさらに紛らわしく、日本語のボケに加えて、撮影時のぶれもすべて흐림 (フリム) になってしまうようです。

 また、Biometric Passport もなんでこんなところに突然パスポートが出ているのかよく分からず、通常のパスポート(旅券)と違い何か特別の意味があるのかと思って、翻訳し残していたのですが... 良く良く調べてみたら、切り抜きモジュールで、証明書写真用に顔写真を切り抜く際のガイドライン表示のオプションでした。つまり顔認証パスポート用にちゃんと顔部分が切り取れるようにガイドラインを表示してくれる、という訳ですね。

 ただ、日本で「生体認証」というと、すぐ思い浮かぶのが銀行ATMでの指紋認証や血管認証なので、なんで biometric が写真ソフトに出てくるのだと思って、何か特別の意味があるのかと思ってしまったのでした。

 後、この翻訳で良いのか迷っているのは、

Color propagation

Radius

 前者は、RawTherapeeの日本語訳に色の波及とあったのでそのまま踏襲しましたが、色伝播と訳した方が良いのかも。いくつかの論文で、色伝播という訳語がつかわれているようです。

 Radiusは直訳すると半径ですが、必ずしも円の半径を指しているとは言えないような... 例えばブラシの太さも Radius でしたので、そこは太さと訳しましたが、全般的に見直した方が良いかも。

 

 なお、Inspection は、RawTherapeeでは、カメラ出しJpegと訳されていました。これに関する訳者の方のコメントは以下にあります。

tasnote.at.webry.info

 結局、RawTherapeeでは、Rawに含まれるJpegのプレビューイメージを表示していたので、このように訳されていたようですし、適切だと思います。しかし、ARTでは簡易現像を行い、いくつかの条件でのエミュレートを行うように機能が拡張されていますので、「カメラ出しJpeg」では不適切になってしまっていました。このため、「画像確認」としました。