先日、マゼンタがかったネガフィルムスキャン画像の補正にチャンネルミキサーを使ってGチャンネルにRチャンネルの情報をミックスすると、結構補正ができるという記事を書きました。
ところが、どうやら微妙なマゼンタ被りに限らず、様々なフィルムスキャン画像の微妙な色被りに、GチャンネルへのRチャンネル混入という手法が使えそうなのです。
デジタルカメラの場合はセンサーの故障でもない限り変な色被りがあるという現象はあまりないかもしれません。ただ、非純正ソフトを使って現像処理する際に適切なプロファイルがないと、色合いが微妙におかしいということはあり得ますので、ひょっとするとそういう際の調整にこの手法は応用できるかもしれません。
例えば、以下の画像をご覧ください。かつてコダクロームを使ったとき、微妙に赤みがかるのが嫌で、ごく僅か水色のフィルターをかぶせて撮っていた時がありました。しかし今になってスキャンしてみると、それがかえってあだとなり、微妙に色被りしてしまいました。
何だ、ホワイトバランスの自動調整をすれば簡単ではないか、と思われるかもしれませんが、これがうまくいきません。あちらが立てばこちらが立たず状態になります。
ご覧のように、微妙に青緑っぽさが抜けきれません(特にクリーム色の部分)。かと言って空に合わせてホワイトバランスを調整するとさらに青みがかります。
これを四苦八苦していろいろ補正しようとしてみましたが、どうもうまくいきません。半ばあきらめて中途半端な補正であきらめていたのですが、ふと思いついてGチャンネルへのRチャンネルの混入を試みてみました。するとかなりうまくいくようなのです。ただこの方法は当然ながら、赤みのある部分は、彩度が落ちてくすんできます(R-Gチャンネル間の値の差が小さくなるため)。そこで赤みのある部分のみマスクをかぶせてオリジナルを残し、残りの部分をGチャンネルへのRチャンネルの混入で補正することにしました。以下その手順です。
1. 赤い部分透過マスクの作成
まず、拙作の相対RGB色マスク画像作成ツールを使い、R透過マスクを作成します。
当然ながらマスク作成の際、ターゲットとなるチャンネルはRチャンネルです。
必ず Mask Invert for Red Maskにチェックを入れてください。でないとCyan透過マスクになってしまいます。Red Mask Thresholdは0を指定します。場合によっては-5か-10でも良いかもしれません。つまり赤みのない部分は一切含みません。Mask Transpaarency Factor は最終的に 2.0にしました。1.0だと効果が弱いようです。またUpper Threshold および Lower Thresholdはそれぞれ 255 と 0 です。つまりすべての明るさの範囲を対象とします。
これでR透過マスク画像が出来上がりました。
2. GIMPを使いGチャンネルへRチャンネル情報を混入
まずオリジナル画像をGIMPに読み込みます。
読み込んだらオリジナルレイヤーを上のように複写します。
次に、下のレイヤーのみ可視化し、それに対しチャンネルミキサーで編集します。
チャンネルミキサーでGチャンネルにRチャンネルの情報をミックスしていきます。今回はGチャンネル65%, Rチャンネル35%で混入しましたが、画像によって適宜混入比は変えてください。
上の、補正していないレイヤーに対しR透過マスクを掛け、上のレイヤーも可視化します。そして画像を統合して、16bit TIFFファイルに一旦出力します。
一見すると、上の図0-1のオリジナルにいきなりホワイトバランス自動調整を掛けた状態とあまり変わらないように思えるかもしれません。しかし違います。この微妙な差が後の補正に効いてきます。
※なお、画像によってはGチャンネルへのRチャンネルのミキシング以外に、さらにRやBの値を105~110%(GIMPの場合は1.05~1.10)位に値を増やすとうまくいく場合があります。
3. ARTで補正
上で、出力したTIFFファイルを Raw現像ソフト、ARTに読み込みます。ARTでなくてもdarktableやRawTherapeeでも構いません。ただこのサイトで何度か指摘しているように、フリーのRaw現像ソフトは、トーン調整を行うとジャンプしたトーンを補間する機能があるので最終調整は、これらを使うことをお勧めします。GIMPやPhotoshopではこの機能はありません。また市販のRaw現像ソフトは使っていないので分かりません。
そして、ホワイトバランスの自動調整を掛け、ARTの場合対数トーンマッピングとトーンカーブ (ここではLab調整のL*のトーンカーブを使用) 補正で、全体のトーンを調整し、さらに自然な彩度を上昇させます。darktableならフィルミックRGBを使うことになるでしょう。なお通常のトーンカーブよりもLab調整のL*のトーンカーブで調整したほうが色ずれが少ないので、微妙な色調補正を行う際はそちらがおすすめです。
おおっ! かなりナチュラルになりました。特に、クリームの部分の微妙な青緑っぽさが大幅に解消しました。影の部分はまだ若干青みがかっていますが、これは自然です。そして最終出力を行います。
比較のためオリジナルを再掲載します。
オリジナルと比較すると圧倒的に、色被り感がなくなっているのが分かります。コダクロームらしさも残っています。マゼンタ被りでなくてもこの手法はこの画像で有効でした。
理屈は分かりませんが、GチャンネルへのRチャンネルのミキシングは、フィルムスキャン画像の微妙なしかし調整困難な色被りを取る、汎用的なかなり有力な手法になる可能性があります。いきなり色相をいろいろいじったりトーンカーブでチャンネルの値をいじるよりもはるかに効果的です。色相をいじるにしてもチャンネルミキシングを行った後の微調整に使った方が良いと思います。
なお、他のチャンネル・ミキシングパターンもいろいろ試してみましたが、GチャンネルへのRチャンネル混入以上に効果のある、色被り補正効果は確認できませんでした。もともとRチャンネルとGチャンネルの相関は一般的に高いですし、またG-Mgの色軸に対する知覚が人間は最も敏感ですので、そのあたりが効果の高い理由かもしれません。
----------------
その他の補正例
このケースの場合は、GチャンネルをG 65% R 35 %でミキシングしたほか、Rチャンネルの値を、R 105%にして出力した上で、ART上でホワイトバランスの自動調整やトーン調整を行っています。
またRのくすみがあまり問題にならないケースでは、R透過マスクを掛けるような編集はしなくても良いです。そうだとすればGIMPは一切使わずにART上でチャンネルミキシングとホワイトバランス調整だけでOKですので、だいぶ編集の手間は減ります。上の画像の場合は、背後に写っているワインカラーの身延色の電車の色が、GとRのミキシングをするとくすんでしまうので、R透過マスク編集が必須でした。