最近の本ツールの進化で、カラーネガフィルム写真の黄ばみ・黄変自体が取り切れないというケースはほぼなくなってきています。9割程度はノービスモードで走らせて、あとは編集を工夫することで黄変は取れています。黄変の濃度が濃い場合や、かなり偏在しているケースで、ノービスモードでは取り切れない場合がありますが*1、それもエキスパートモードでパラメータを調整すればほぼ根絶できている状況です。逆に黄色みが削除され過ぎと感じられる場合もありますが、筆者の場合は、追加補正の中で、トーンカーブを使って、シャドウ域を中心にBチャンネルの値を引き下げる (黄色い方向に寄せる) 補正を加えることで対処することが多いです。
しかし、問題はその後の色調をどう調整するか、です。Bチャンネル再建法自体は、Bチャンネルしかいじりません。そのため、Bチャンネルにおける黄変自体は取り切れても、フィルムのスキャン状況や、元の黄変の色の偏りによって、Bチャンネル補正法適用後の (他チャンネルの) 状態がまちまちです。
筆者の手持ちのフィルムでよくあるケースは黄変がややオレンジに傾いているケースで、黄変除去後も、その後にうっすらマゼンタの痕跡が残る場合であり、それは追加補正でマゼンタ除去することで解消できます。また黄変自体がオレンジに傾いていなくても、ネガフィルムのスキャンでもともとマゼンタ被りが見られることはよくありますので、マゼンタ除去は非常に有効な追加補正手法の一つです。
しかしそれ以外にも、追加補正でどう色調をまとめていったらよいか、迷うケースはまだまだあります。この画像もその1枚です。この調整については本当にケースバイケースで、今回は、とりあえず試行錯誤の記録として残しておきます。
以下の事例は、非常に色調補正に迷ったケースケースです。まずオリジナルです。
もともとスキャナの取り込みでマゼンタがかっていたと思いますが、さらに、黄変を補正しようとスキャナドライバがかなり強く青紫に過剰補正を掛けたと思われるケースです。結構この手の画像は苦労します。
また、上下端および左右の中央付近に周辺青変褪色が見られるようです。
各レイヤーの編集状況は下記の通りです。
周辺補正レイヤーはこのマスクを掛けた上で不透明度を調整しました。
周辺青変褪色のある部分を避けてみました。
これらに基づいて再構成したBチャンネルが下記です。
上の再構成したBチャンネルを使って、RGB合成をしたものが下記です。
一応黄変を削除した状態ですが、この画像の場合、全体的に強く青紫がかっており、さらに遠方の山も結構緑が強く、変にトーンカーブをいじると山が妙に緑色がかり、中遠景の山として不自然になってしまい、非常に頭を抱えました。
ともかく、相対RGB色マスク作成ツールでマゼンタマスクとグリーンマスクを作ってみます。
グリーンマスクは青緑をなるべく透過するように作りました。
補正1をGIMPに読み込んでレイヤーを3枚複写します。1つはマゼンタ補正、もう一つはグリーン補正、そしてもう1枚はグローバル補正に使うことにしました。まずマゼンタ補正から。
当サイトとしては、比較的オーソドックスなマゼンタ補正のカーブを作ります。次はグリーン補正。
Bのカーブをシャドウ域を中心に大きく下げるとともに、明度をシャドウ域中心に上げてみます。最後はグローバル補正。
シャドウ域でBを大きく下げてみました。うまくいくか分かりませんがここで一旦TIFFに出力します。
青紫がかりはかなり改善しましたが、まだ不自然です。これを ART に読み込みます。
読み込んで、とりあえず、スタンダードフィルムカーブを適用してみると、だいぶ雰囲気が変わりました。それでも山の両サイドの緑が妙に強くて不自然です。先ほど周辺補正をやるべきではなかったかもしれません。そこで、カラー/トーン補正を使って補正を試みます。
山の緑の部分だけ範囲指定するよう類似色マスクとエリアマスクを組み合わせ範囲指定します。
その部分の緑を若干青に寄せます。これでも今一つパッとしませんので、ここで LUT をえいやっとかけてみます。
カラー/トーン補正 の LUT モードで 最近お気に入りの、ARRI 5110 Nature を全域に適用したら、非常にいい感じになりました。雲が多めでも晴れやかな感じになりました。このLUTは特に青空がスッキリしないときに、非常に有用です。なお、ARRIの LUT の利用方法については、こちらをご覧ください。最後に傾きを調整して出力します。
かなり自然な感じになりました。しかし、下に再掲したオリジナルと比べると色調が全然違います。ここまで違っていて良いのか、果たして本当にこれで正解なのか... 今一つ自信がありませんが、一応それっぽく見えるので OK ということにします。
こうやってまとめて書くとすらすら行ったように見えますが、実際は様々な試行錯誤の結果、まぁまぁになった過程をまとめてみたという状況です。
ただ、この補正から見えてきたことは、どう色調をまとめたら良いのか途方に暮れる画像でも、黄変補正、マゼンタ補正、グリーン補正、そしてシャドウ域のB値の引き下げといった手続きを淡々とやっていくと、なんとか正解に近いあたりに漕ぎ着けそうだ、ということです。
*1:これは、黄変補正ファイルを作る際にチャンネル間の平均明度を調整しているためです。黄変が画像の一部に偏っていると、黄変に伴うBチャンネルの平均値の低下が少なくなるため、本来必要な調整量よりも調整量が少なくなってしまうためです。それでも黄変の濃度があまり濃くなければハイブリッド補正のラティテュードで吸収可能ですが、濃度が濃いと吸収しきれずに、黄変の補正し残しが出てしまいます。