darktable は2022年末のバージョンアップ 4.2.0 から 一部カメラ機種の Raw ファイルから、Exif データに記録されたレンズ補正データを読み込んだレンズ補正に対応しています。
4/3 およびマイクロ 4/3 規格のカメラは早くから、レンズ補正プロファイルデータを使ったデジタル的レンズ補正を前提としたレンズづくりを進めていますし、富士フィルムのカメラも同様です。また最近では Nikon の一部 Z レンズから同様な動きがあるようです。
このため、Adobe は4/3、マイクロ 4/3、および、富士フィルムの一部を除く大半のレンズに関しては、レンズ補正データはメーカー提供の埋め込み補正データを使うことを前提として、レンズ補正のための lcp ファイルを供給していません。
フリーソフトに関しては、今までは、lensfun のデータに依存してきましたが、darktable は、4.2.0 から、一部のカメラについて、Raw埋め込みレンズ補正データへの対応を発表しています。そのあたりどうなっているのかを確認することを含めて、Raw現像の比較を行ってみます。
比較対照の画像は、Olympus の OM-D E-M1 iii + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO を使っています。
まず、ART (Ver. 1.19.3) を 使って色収差無補正で出力してみます。以下の画像は、現像したTIFFファイルをIrfanView に読み込み 200%に拡大した画像をキャプチャしたものです。なお、ジオメトリックな歪曲補正は掛けています。以下の画像は、現像したTIFFファイルをIrfanView に読み込み 200%に拡大した画像をキャプチャしたもので、以降、拡大画像は同じ条件で比較します。
補正データによる補正を前提としているせいか、プレミアムレンズであるにもかかわらず、無補正だと結構色収差が出ます。
次に、OM Workspace を使ってデフォルトで出力してみます。明示的な色収差補正は一切かけていませんが、デフォルトで Raw ファイルの Exif データに書き込まれたレンズ補正データを見てデフォルトで補正が掛かっているはずです。逆に言うと OM Workspace 上ではデフォルトの色収差補正はオフにできません。
以前 E-5 のファイルで試したところ、他の Raw 現像ソフトに比して際立った優位点が見当たらなかった OM Workspace ですが、Ver. 2.1.1 でしかもカメラも OM-D E-M1 iii ということで変化が見られます。
まずレンズの色収差はかなりきっちり補正されています。マイクロ 4/3 になってレンズの補正データの精度が上がっているのかもしれません。もっともプレミアムレンズなので、きっちり補正されていないと問題でしょう。輪郭もシャープでテクスチャもスムーズですが、輪郭に対するシャープニングが掛かっているように思われ、輪郭強調が目立ちます。
次は ART です。
ART はデフォルトの設定ですが、デモザイクだけ AMaZE に変更して現像しています (デフォルトは RCD)。色収差補正は、Rawデータにかかるもののみで、lensfun のレンズの補正データは使っていません (それがデフォルト設定です)。使うと却って色収差がふえるようです。OM Workspace による処理結果よりシャープではあるのですが、壁などのテクスチャにざらつきが感じられます。Nikon のD5500 では感じられなかったのですが。この辺りはカメラセンサーの違い、あるいはセンサーサイズの違いが反映しているのかもしれません。網線ガラスの網線やエアコンの室外機のルーバーは、ART による結果が最もはっきり見て取れます。これを考えると、OM Workspace では、多少スムージングが掛かっているのかもしれません。色収差はかなり良く補正されているもののごく僅か赤いフリンジが出る傾向です。輪郭強調 (シャープニング) は見られません。
なお、lensfun データを使って補正すると以下のようになります。
収差があまり補正されません。lensfun と Rawベースの色収差を併用すると、この中間になりますが、Rawベースの色収差単独の方が結果が良いです。どうもNikon D5500 に比べると、lensfun による補正結果が悪いです。カメラによってアルゴリズムの適不適があるようです。なお、この傾向は RawTherapee でも調べてみましたが、同様です。
次は darktable (Ver. 4.2.1)です。darktable は 4.2.0 から一部のカメラについて、純正 Raw 現像ソフトや Lightroom などのように、Raw ファイルに含まれる Exif メタデータの レンズ補正データを読み込むようになったようです。富士フィルムのカメラについては読み込むということが報告されていますが、Olympus (OM System) のカメラではどうでしょうか。ということで、検証してみます。
OM Workspace や Lightroom, Adobe Camera Raw では、メーカー提供のレンズ補正データは読み込んだ時点で適用されオフにすることができないようです。そこで darktable ではどの時点で適用されるのかを検証してみます。まずジオメトリック (幾何学的) 補正からみてみましょう。
まず OM Workspace のデフォルトです。
次は一切のレンズ補正をオフにして darktable で現像出力してみます。
明らかに、歪曲 (ジオメトリック) 補正はかかっていません。では、色収差補正はどうでしょうか?
やはり色収差補正はかかっていないようです。ただ ART の色収差補正なしより色収差が少ないように思われます。しかし ART のほうは歪曲補正のみ掛けた状態なので、それで色収差が拡大されたと考えられます。
次にレンズ補正のみオンにして現像してみます。補正は[すべて]になっていますが、倍率色収差上書きにはチェックを入れていません。つまり lensfun のデータのみを使って補正している状態です。
なお、レンズ補正の選択が薄くなって選択できず lensfun となっています。Rawファイルからの読み込みに対応していれば、ここで選択できるはずなのですが... やはり、結局 Olympus に関しては、現状では、Raw ファイルからのレンズ補正データの読み込みに対応していないようです。なお、読み込みモジュールの試作は行われていますが、Exif データ自体は読み込めてもその意味に対する公開データがないため、難航しているようです。おそらく 4/3, マイクロ4/3 のタグ情報は共通かと思われますので、他のメーカーに関しても同様でしょう。
それでもART の無補正や lensfun 補正と互角のようです。ただ、色収差の傾向が異なるので、どちらが優れているかは好みの問題になるとは思いますが、画像は強調感がなくナチュラルな感じです。同じ lensfun のデータを使って補正していてもこのケースはART と darktable で傾向がかなり違います。
さらに色収差補正と Raw 色収差補正の両方をオンにしてみました。
色収差は OM Workspace ほどではありませんが、さらに改善され、かなり良く補正されています。拡大してみるとごくわずかに右側に赤いフリンジと左側に青いフリンジが出るような印象です。全般的に輪郭がソフトな印象は D5500 と同じですが、OM Workspace に見られるような輪郭にシャープネスが掛かったような感じは全くなく、好ましい印象です。またテクスチャのスムーズさは OM Workspace と互角です。ただし、ART や OM Workspace では網線の入ったガラスであるのが見て取れますが、darktable では、その読み取りがしにくく、またエアコンの室外機のルーバーの表現も今一つです。ART の方が、全般的にシャープな印象です。解像度的には若干甘めですが、変な誇張感がなく、悪い感じではありません。コントラストも低めです。しかもこれは 200% に拡大している図ですし、通常は問題にならないと思います。
あるいは、darktable はデフォルトで多少スムージングが掛かる設定になっているのかもしれません。それが輪郭甘めになる原因ではないかと思われます。ART の方はおそらくスムージングが掛からない一方、センサーサイズの小さいマイクロ4/3 では、それがテクスチャの荒れの副作用として多少目立つということかもしれません。OM Workspace はスムージング + 輪郭シャープニング で対応しているように思われます。
なお、ART では lensfun データによる補正とRaw 色収差補正を併用すると色収差補正が悪化する傾向にありましたが、darktable では併用したほうが良い結果が得られます。lensfun データと他の色収差補正の併用に関するアルゴリズムが ART よりも優れているようです。このあたりは、以前、darktable の有力エンジニアだった Aurélien Pierre 氏がモジュール間の相互依存関係が非常に重要 (なので、モジュールのリストラがもっと必要) と指摘していたように思いますので、ART よりも darktable の方がそのあたりよく考えられているのかもしれません。
ともあれ、4/3 陣営の Raw ファイルからのレンズ補正データの読み込みに対応していなくても全般に以前の darktable よりは明らかに色収差補正の能力は改善されていると思います。
以上を比較すると...
OM Workspace: 色々な収差は適切に補正されていて、スムージング(ノイズ低減)とシャープニングのバランスは中庸だが、若干輪郭に不自然な強調感がある。収差補正に関してはレンズの違いもあるかもしれない。
ART: おそらくデフォルトではスムージング(ノイズ低減)が掛かっておらず、センサーサイズのせいか荒れを感じるが darktable よりは全般的にシャープに感じる。Raw レベルの色収差補正はおそらく単体では darktable よりすぐれている。但し、lensfun 補正データによる色収差補正は特に Olympus の Raw ファイルでは明らかに darktable より劣るり、Raw レベルの色収差補正と併用すると、色収差補正単独とlensfun による補正の中間になり、Raw レベル色収差単独使用の方が良い。
darktable: おそらくデフォルトで若干のスムージングか、アンチエイリアスがかかる。そのため、鮮鋭度が ART に比べ落ちると感じられる。ただし、Olympus のファイルについては、センサーサイズの影響か、むしろそれのメリットの方が上回る印象。また OM Workspace のデフォルトに見られるような、不自然な強調感は少ない。また、色収差補正に関しては、lensfun データによる補正は明らかに ART を上回るとともに、デモザイク後にかかる色収差補正に関しても有効であり、複数の色収差補正を併用するメリットがある。ただし、複数の色収差補正を併用してもごくわずかに色収差が残る。僅差ではあるが ART の方が色収差補正はより良いか?
最後におまけですが、darktable で一切無補正で出力した TIFF ファイルを NX Studio で色収差補正を掛けた画像です。
うぅーむ。これがベストかもしれませんね。当然レンズプロファイルなんか使っていませんが (他社レンズですし)、ビシッと決めてきます。Nikon 凄いです。
なお、NX Studio で他社カメラの画像に色収差補正を掛ける際には注意点があります。以下の記事をご参照ください。