省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

自分のレンズプロファイルデータが見当たらないとお嘆きの方に... カメラユーザコミュニティへの貢献の勧め

 大半のフリー・オープンソース・ソフトウェア (FOSS) の Raw現像ソフトは、カメラのレンズ補正データを、オープンソースのデータライブラリである lensfun に依存しています。また、市販の Raw 現像ソフトでも lensfun のデータに依存しているものがあります (SYLKYPIX*1, Affinity Photo, On1 Photo Raw等)。

 ただ、lensfun のデータはボランティアで維持されているので、すべてのレンズに対応しているとは限りません。自分の使っているレンズのデータがないとお嘆きの方もいらっしゃるかと思います。この対応として次の二つの方法があります。

 

Adobe lcp ファイルのデータを流用する

 lensfun には、コマンドラインベースの lensfun‑convert‑lcp というツールが含まれています。これを使うと Adobe の lcp ファイルを lensfun データにコンバートできるようですのでこれを使うという手があります。ただこれを使うには自分でソースコードからコンパイルしなければなりません。Windows の場合ちょっとハードルが高いと言えます。

 RawTherapee や ART のように直接 lcp ファイルを読めるソフトウェアを利用するなら問題ありませんが...

■ lcp ファイルが用意されていないレンズの場合は...

 なお、 lcp ファイルを使おうと思っても問題がある場合があります。Adobe の提供する lcp ファイルの場合 マイクロ 4/3陣営のレンズが含まれていませんし、また Fujifilm のレンズも非常に少ないです。これは、これらのカメラについてはレンズ補正データを Rawファイルにメタデータとして書き込んでおり(※注意 通常は、Raw ファイルに補正済みの画像データが保存されているわけではありません。但し一部のカメラに関しては Raw に補正済み画像データを保存できるようになっている可能性があります)、Adobe 製のアプリケーションソフトは、メタデータにある補正データから、読み込んだ Raw 画像データに対し補正を掛けているためです。他のメーカーも最近のレンズではそのように対応しているケースもあるので lcp ファイルが見つからないというケースは今後増える可能性があります。

 darktable、RawTherapee、ART といったフリーの Raw 現像ソフトは Raw ファイルに含まれる補正データを直接読み込むことはせず(※追記 その後 darktable は一部のカメラに関しては補正データを読むようになりました)、基本的に、lensfun データに依存しています。というのは、メタデータに書き込まれている補正データの意味を知るためには、カメラメーカから情報を得なければなりませんが、そのために秘密保持契約を求められることが大半です。しかし、フリー・オープンソース・ソフトウェアは、ソースコードが公開されていますので、そもそも秘密保持が不可能で、たとえカメラメーカが無償で情報提供するとしても、秘密保持契約自体を締結することができません。そのため、lensfun にデータがないとこの点で問題が出ます。RawTherapee, ART に関しては lcp ファイルの読み込みによる補正にも対応していますが、マイクロ 4/3 のレンズ等そもそも lcp ファイル自体Adobe が作成していないケースでは、lensfun にも lcp ファイルにもデータがないと困ったことになります。

 とはいえ RawTherapee, ART では、自動歪曲収差補正ボタンがあり、プレビュー用 Jpeg を基にレンズの歪曲補正を行えます*2。これで歪曲補正については、ある程度対応は出来ます。

自動歪曲収差補正ボタン (ART)

 以下のディスカッションもご参照ください。

https://www.dpreview.com/forums/thread/4577776

 

 

 なお、darktable では Raw ファイルから直接レンズ補正用メタデータを読むモジュールの試作が行われていますが*3、現状ではメインに取り込まれていません。

[※2024.2 追記 なお、富士フィルムのカメラのレンズ補正メタデータに関しては、独自にこのメタデータの意味を解析した人がいますので、darktable 4.4以降 では、 Raw ファイルに含まれるメタデータを使って補正をかけています。また OM System / Olympus に関しても 4.6 からヴィネット補正を除いて解読されたようです。ただし ART, RawTherapee に関してはこれらについても依然 Lensfun に依存していると思います]

 

■ lensfun 用に自分のレンズを使った画像をアップロードする

 以上のような場合、lensfun のデータをボランティアで作成している Torsten Bronger 氏が lensfun のデータを作れるように、自分のレンズで撮影したデータをアップロードするという方法があります。データアップロードページは Bronger 氏の個人サイトの以下にあります。

wilson.bronger.org

 但し、Torsten Bronger 氏が自由にあなたがアップした画像データを使えるように、あなたは許諾する必要があります(アップロードしたことで許諾したものとみなされます)。

 なお、lcp ファイルのない最近のミラーレスカメラのレンズとしては、

フォーサーズ および マイクロフォーサーズ陣営のレンズ、富士フィルム (一部を除く)、Nikon Z レンズなどがあります。これらのレンズで新発売のレンズをお持ちの方はぜひ、lensfun にデータをアップしてください。

 また、アナログカメラ時代のオールドレンズもデータがない場合が多いです。

 また、こちらの lensfun のページの記述によりますと、Adobe の lcp プロファイルは、歪曲補正や周辺光量補正の補正量は控えめであり、また最近のレンズでは倍率色収差 (TCA) の補正がいい加減になる傾向にあり、lensfun のデータの方がより厳密なデータを作成しているので、ぜひ Raw データの寄託を行ってほしいと呼びかけています。日本人ユーザの方はより様々なレンズを使っていらっしゃると思いますので、lensfun のデータに欠落しているレンズをお持ちの方はぜひ協力してはいかがでしょうか。

 

で、どのようなショットを撮影すべきかですが、上のページのマニュアルを翻訳すると...

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 ズーム レンズの場合、少なくとも 5 つの異なる焦点距離で写真を撮ります。必ず、最短、最長距離を含める必要があります。

 テストショットは、少なくとも 5 メートルの距離で撮影する必要があります。画像には、画像の端から端まで、画像の長径のすぐ近くまで伸びる 1 本の直線が含まれている必要があります。画像の高さの上から 1/3 の位置に 2 番目の直線が含まれていると理想的です。

 こちらの写真が模範例です。この写真の番号付きのマークが、上に言及した2本の線を示します。近代的な建物を利用して写真を撮ることをお勧めします。レンガの壁やタイルの写真を撮らないでください。カメラは傾いていたり転回していても構いません。但し非常にシャープな写真を撮ってください。すべての補正をオフにして撮ってください (一部のカメラは RAW に対しても補正を行うので注意してください)。

 

色収差および周辺光量補正データ用画像について

 色収差用画像については、上述の画像データで兼用できますが、シャープでハイコントラストな境界線が画像全体に含まれる必要があります。

 周辺光量補正用については、

 レンズの前にディフューザーが必要です。これは、半透明のスリガラスまたは白いプラスチックの薄いシートである場合があります。何も見えないように十分に不透明でありながら、光が通過できるよう十分に透明であれば、何でも構いません。厚さは 3mm を超えてはなりません。目立ったテクスチャがあってはなりません。レンズの前面と完全に平行である必要があり、曲がっていてはなりません。均一に照らす必要があります。

 例として、私 (Torsten Bronger 氏) 自身のディフューザーは、安定させるため通常のガラス片に白いプラスチックのシートをテープで貼り付けたものでした。部屋の天井をアップライトで照らし、カメラを上に向け、レンズに隙間なくホイルを当て、写真を撮りました。

 カメラはRAWモードに切り替えます。カメラによって補正が適用されていないことを確認してください (一部のモデルは RAW に対しても補正を適用します)。カメラを「絞り優先」に設定し、ISOを最低に設定してください。マニュアル フォーカスをオンにしてください。

 無限遠に焦点を合わせます (レンズの直前にシートがあっても)。 最大絞りと、さらに1段のずつの間隔で、より小さい絞りで3 枚、さらに最小絞りで (計5枚の) 写真を撮ります。ズーム レンズの場合は、5 つの焦点距離で写真を撮ります。これにより、単焦点レンズの場合は 5 枚、ズームレンズの場合は 計25 枚を撮ることになります。

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 なお、lensfun のデータがアップデートされた場合、Linux 上では比較的簡単にデータのアップデートが可能ですが、Windows上では厄介です。Windows 上での lensfun データアップデートツールを公開されておられる方がいらっしゃいますが*4、通常は lensfun データを使うソフトウエアの次のバージョンのリリースを待つ方が簡単でしょう。

■ NX Studio の強力な色収差補正

 なお、Nikon の NX Studio の色収差補正は、以前にもレポートしましたが、非常に強力で、例え他社カメラ+レンズの組み合わせであっても、他社の純正ソフトによるプロファイルを使ったレンズの色収差補正よりも強力に色収差補正が可能な場合もあります。もちろん、NX Studio も完ぺきではありませんが、一旦 TIFF に落として NX Studio の色収差補正に掛けてみる価値はあります。

 

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関連情報

rawpedia.rawtherapee.com

discuss.pixls.us

 

discuss.pixls.us

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[関連記事]

yasuo-ssi.hatenablog.com

yasuo-ssi.hatenablog.com

 

*1:以下のマニュアルの記述を参照。

www.isl.co.jp

*2:以下参照。

rawpedia.rawtherapee.com

*3:例えば

github.com

*4:以下のディスカッションをご参照ください。

discuss.pixls.us