省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

韓国 Koreil 中央線 清涼里-安東間運行 KTX に乗ってみた

 8月に韓国に行って来ました。韓国鉄道公社 (Korail) 中央線では2020年12月、ソウル清涼里(チョンニャンニ)ー安東(アンドン)間に KTX の運行を開始しましたが、コロナ禍のため韓国に行けずずっと乗れていませんでした。今回乗ってみたので、その報告を...

 

 まず、最近の中央線近代化の歴史を Wikipedia から拾ってみると、かつて中央線は電化されていたものの単線で電機が牽引する列車が運行されていましたが、2005年に、清凉里 - 徳沼(トクソ)間が複線化、線形改良・路線移転がおこなわれ、広域電鉄 (日本で言うところの国電) が運行されるようになりました。さらに、電鉄区間が2007年に八堂(パルダン)、2008年に菊秀(ククス)、2009年に龍門(ヨンムン)にまで延長、さらに2012年には龍門 - 西原州(ソウォンジュ)間が複線化された新線に切り替えられ、2014年には京義線との直通運転が始まり、広域電鉄区間は通称京義・中央線と改称されます。

 さらに2017年には電鉄区間が砥平(チピョン)駅まで延長、また同年12月、平昌(ピョンチャン)オリンピックを前に京江 (現 江陵) 線が開通し、清涼里ー西原州間を 江陵(カンヌン)行 KTX が走るようになります。

中央線略図
(青い線が中央線、水色は高速鉄道専用線、黒はその他)

 そして、2020年12月17日に丹陽(タニャン)ー栄州ー安東ー武陵(ムヌン)信号所間が新線に切り替わり、2021.1.5、西原州(ソウォンジュ)ー堤川(チェチョン)間でも新線切替とともに、清涼里ー安東間で KTX の運行が開始されます。また栄州ー安東間の複線化は2022年6~7月に竣工したようです。今後、複線電化は新慶州(シンキョンジュ)まで延長され、将来的にはKTX の運行は釜田まで延長されるようです。

 なお、中央線は KTX 専用の京釜高速線や湖南高速線とは異なり、ITX-セマウル号ムグンファ号、貨物列車と共用となっており、KTX の最高時速も 260km/h までに抑えられています。しかし全般的に新線切替による線形改良によってムグンファ号も恩恵を被っており、新線切替以前に比べソウルまで1時間以上時間短縮になっています。

 現在、武陵旧信号所 (新線切替で信号所廃止)ー永川間が以前の経路のまま残っていますが、随時新線に切り替わる予定のようです。

中央線、ソウル側列車始発駅清涼里

 こちらは中央線、江陵線 列車、KTX ソウル始発駅清涼里駅です。中央線のKTX は全列車この駅が始発です。ソウル駅から広域電鉄で20分ほど東にあります。かつてこの写真の右側に清涼里588(オーパルパル) と呼ばれる売春街がありましたが、現在再開発によりその跡形もなく高層マンション・商店街となっています。

 以下は清涼里駅構内です。前にある看板には「農産物売り場の後ろに切符売り場があります」と書かれています。

清涼里駅構内

 以下は農産物売り場から見た駅構内です。左奥は電鉄線乗り場、右奥が切符売り場および列車乗り場になります。

農産物売り場

 以下はホームに通じる通路。韓国の鉄道では、電鉄線には改札口がありますが、列車線にはヨーロッパの鉄道同様、改札口がありません。従って電鉄線と列車乗り場の入り口は別になっています。改札がないのは、韓国の列車は基本的に指定席になっており、車掌は指定席に乗客がいれば検札を行いません。立席/自由席乗車券もありますが、その場合は、予約されていない空席があれば座ってよく、ない場合は立って乗ることになります (ですので、自分が予約しているはずの席に他人が座っていることがよくあります。その場合は、どいてください [チャリルル ピキョチュセヨ] と言って自分の席に座ります)。車掌は予約されていない席に座っている乗客のみ検札を行います。このため改札口がないのです。ひょっとすると KTX 導入の際、列車線改札システムも TGV に合わせてヨーロッパ方式に改められたのかもしれません。

 また、料金体系は、日本の場合、基本運賃+各種料金となっていますが、韓国の場合はそもそも列車種別や特等などの座席種別によって、運賃が異なっています。また列車線は、かつてはピトゥルギ号、統一号と呼ばれる鈍行列車がありましたが、現在はそれらは廃止され基本的に普通 (緩行) 列車はなく、原則かつての急行列車であるムグンファ号が一番遅い列車です。ただし一部例外的に普通列車が設定されている路線があり、それらは通勤列車と呼ばれています。基本的に韓国の鉄道は、大都市およびその近郊の電鉄・地下鉄線を除き、都市間輸送を担うものであり、近距離輸送はバスに任されています。

プラットホームへ通じる通路

 なお、韓国の鉄道のチケットは日本からもインターネットで予約できます。let's Korail というサイトに入ると予約でき、日本語PCでアクセスすると日本語で表示されます。決済は Visa, JCB, Master カードが使えます。発券されると、QRコード付きのチケットが表示されますのでそれをプリントして持参します。ただ指定席の場合は、ほぼ見せる必要はなく、立席/自由席のみチェックされると思います。

オンライン購入チケット

 上はオンラインで購入したチケットです。なお、ソウルから清涼里までKTXを乗り継いでいるので、安東ー清涼里間の料金より1600ウォン割高になっています。

Korail 列車自動券売機 (堤川駅)

 上は自動券売機です。現金 / クレジットカードが使えますが、カードは韓国国内発行クレジットカードに限られます。外国人観光客が自国で発行されたカードで乗車券を買いたい場合は有人窓口に行かなければなりません。

Korail 列車乗車券販売窓口 (堤川駅)

 右側が通常窓口ですが、左側は交通弱者窓口です。下に日本語で高齢者優先窓口と書かれていますが、韓国語では交通弱者、つまり高齢者だけではなく、障碍者や韓国語理解の難しい外国人なども含まれます。但しこの日は混雑していなかったためか、交通弱者窓口は開いていませんでした。これはどの駅でも同じでした。繁忙期のみ開くのではないかと思います。

 なお中央線の列車ですが、現在、清涼里から安東方面へは、KTX-イウム号が1日8本、ムグンファ(むくげ)号およびITX-セマウル号が2 x 2 = 4本、運賃は清涼里ー安東間 KTX は25100ウォン、ITXは、21100ウォン、ムグンファ号、15400ウォン、所要時間の方はKTX は、2時間~2時間10分程度、ITXは、3時間弱、ムグンファ号は、2時間40分~3時間弱で、ITXとムグンファ号はほぼ所要時間は変わりません。ただしITXは携帯電話の無線充電ができたり、車内で電源が使える、とほぼKTXと同じ車内設備がある点が異なります。新線切替で、ムグンファ号でも大幅に到達時間の短縮がなされました。なお、この料金は2023年8月末基準で、この秋にも運賃の値上げが予定されているようです。

 なお、韓国は外国人観光向けに Korail Pass を販売していますが、そもそも韓国の鉄道料金 (交通料金全般) は、上に記したように結構安いのに比べ、Korail Pass は3日間パスの場合14万ウォン近くとあまり安くなく(しかも9月15日から3日間パスで、16万5000ウォンに値上げが予定されている)、韓国全国乗り鉄目的の旅行でもなければペイしないと思われます。なお、Korail Pass は海外在住でも韓国パスポート所持者は買えません。

 中央線 KTX清涼里駅8番線ホームから出発します。下は、KTX-イウム号です。KTX-イウムとは次世代KTX という意味で、日本語だったら KTXネクスト、という感じでしょうか。京釜線 KTX は フランスの TGV の技術で作られたプッシュプルトレインですが、KTXイウムは、日本の新幹線と同じ動力分散型の電車です。中央線 KTX 開業に合わせて導入されました。なお、韓国の電化された地上鉄道線はすべて交流25万ボルトで、日本の新幹線と同じです。

清涼里駅 8 番線ホーム

 清涼里駅は、昔ながらの低いホームです。なお、他の駅は高床式の段差のないホームになっていますが。ここだけ異なっています。いずれソウル駅に直通させる計画なのかもしれません。

 以下、客室内です。

KTX イウム号客室内

KTX イウム号客室内

 日本の新幹線よりも幅が狭くなっていますが、これは韓国ではすべての鉄道が標準軌KTX も在来線に乗り入れるため、在来線と車輛限界が共通だからです。

車内モニター表示

 車内放送及びモニターは、韓国語、英語、中国語、日本語の案内があります。上の写真はモニタの日本語表示です。

 座席にはスマートフォン無線充電器やパソコンなどをつなげる電源が設置されています。

スマートフォン充電器、電源

 座席仕様案内が、韓国語と英語で書かれています。

利用案内

 スーツケース置き場です。

スーツケース置場

 製造メーカーは、この車両の場合、現代 (ヒョンデ) ロテムでした。

製造所表示

 貫通路付近。AEDと自販機が見えます。

貫通路付近

 飲料水自販機です。日本でもかつて新幹線や特急列車に設置されていましたが、なぜか撤去されてしまいました。車内販売と競合するからとも思いましたが、その車内販売も撤退の方向なのになんででしょう?

飲料水自動販売

 下は車いすにも対応した車内トイレです。JR東日本などに設置されているものとそっくりです。

車いす対応トイレ

 開閉ボタンも表示がハングルになっているのを除けば日本と同じです。

トイレ開閉ボタン

トイレ内部

 おむつ交換台の上の注意表示を見ると、表示が4か国語になっていますが、トップが日本語、次が英語、3番目が中国語、最後が韓国語になっています。どうやらトイレユニットは日本から輸入して設置しているのではないかと思われます。

おむつ交換台

 日本では、通勤電車にも広く身障者対応トイレが設置されていますが、韓国ではそもそも両数の多い通勤電車にはトイレ自体が設置されず、車いす対応トイレが設置されているのは、最新のKTXしかありません。韓国であまり販売量の見込めない身障者対応列車トイレを自国で開発してもコストがかえって高くつくので日本から輸入しているものと思われます。

韓国鉄道公社大邱慶北本部

 栄州駅を出るとKorail 大邱慶北本部の建物が見えました。日本の旧国鉄で言えば鉄道管理局に相当する組織です。旧安東鉄道局の後身です。栄州は中央線から慶北線、嶺東線を分岐する慶尚北道の鉄道拠点ではあるとはいえ、田舎町であることは間違いなく、KTX 乗降客がソウルに次いで多い東大邱大邱都市圏を含めた鉄道管理の拠点がここにあるとは意外です。調べてみると、2020年9月21日に コロナのため鉄道収入の大幅減収があり、それを受けてKorail の全体的な組織改編があり12地方本部の内4本部を併合し、8本部に減らすことになり、栄州にある慶北本部と大邱にある大邱本部を合併し、その本部をここに定めたようです*1。今後、中央線の KTX 化事業を重点的に推進していくためなのかもしれません。

 下は安東新駅のホーム。高床ホームになっており、ホームドアが設置されています。新しい駅はこちらが標準です。安全性の面では良いのですが、車輛が撮りにくいのが... なお、在来線ホームは低床で、段差があります。清涼里から安東まで KTX で2時間強です。

安東駅のホームドア

安東駅 KTX ホーム

 以下は在来線ホームです。

安東駅在来線ホーム

 こちらはホームドアがなくホーム高さも大陸式に低くなっています。ホームの反対側は KTX 用のホームで、かなり段差があり、転落防止の柵や仕切りがあるのが分かります。なお、安東駅の場合、ホームの対面で KTX 用と在来線用ホームが並んでいますが、駅によっては、ホームの前半分が KTX 用、後ろ半分が在来線用になっていて、途中で高さが変わる構造になっているところもありました。

前後で在来線用とKTX 用が変わるホーム

 この場合、ホーム長がめちゃめちゃ長くなります。ただ中央線のように KTX と在来列車が混用されている路線の場合、特急列車が止まるような大きな駅の場合、元々貨物列車の退避を考慮してホーム長が非常に長い場合が多く、旅客列車は 中央線の場合3~6輌程度と短いので、それでも問題ないようです。ともあれ全般的に鉄道施設に余裕があります。

 

 以下は新安東駅の構内です。

安東駅

 「安東驛」という額は旧駅から持ってきたようです。

カフェと観光案内所

 駅にはカフェとその奥に慶尚北道観光案内所があります。

 

発車案内板

 安東駅の発車案内板、奥がプラットフォームへの入り口です。左側に切符の自動販売機があります。

安東駅外観

 夜の安東駅外観です。向かい(こちら)側がバスターミナルになっており、隣接しています。なお、安東市内のバスは、2022年秋まで旧安東駅横の教保生命前バス停を中心に展開されており、KTX を使って来ても高速バスを使って来てもちょっと不便でしたが、2022年10月に市内バス路線の大幅な再編成があり、一部を除いて安東ターミナルから発着するようになりました。

 

 因みに、KTX のライバルである高速バスの安東-ソウル便ですが、現在はソウル高速バスターミナル (ソウル京府ターミナル、ソウル南部高速ターミナルの別称あり)、および東ソウル高速ターミナルに、それぞれ1日15便、日中平均間隔は1時間 (30~100分)、両方を合わせると平均 30分に1本程度ということになります。但し現在はほぼ優等座席車なので、KTXとの料金差は1000ウォン程度 (プレミアム座席車だとKTXより高い)、所要時間は 2時間40分 (ソウル京府)または3時間(東ソウル)となっており、到達時間や車内設備を考えると必ずしもお得とは言えません。ただ本数が多いという点では利点があります。

 なるべく安くというなら鉄道のムグンファ号か ITX-セマウル号での方が有利で到達時間も高速バスと変わりません。

*1:以下の記事を参照。

www.yjinews.com

www.yeongnam.com