省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

新緑カラーをBチャンネル再建法でどう再現するか - Bチャンネル再建法における新緑表現復元のための追加補正の考察(1)

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 本サイトでは、Bチャンネル再建法による不均等黄変ネガカラー写真の補正法についてお伝えしておりますが、Bチャンネル再建法の技法上の理由からくる必然的弱点として、GチャンネルとBチャンネルの値が接近するという副作用があります。

 この副作用の結果として、例えば新緑の鮮やかさの表現というのが苦手です。新緑は主として黄緑色ですが、これはRとG値が高くB値が低いという特徴があります。しかし、Bチャンネル補正法を掛けるとG値とB値が接近しますので、どうしても緑が青緑に寄ってしまいます。場合によると緑が深緑っぽくなり、新緑に見えない、ということになりがちです。

 これを追加補正する方法としては、既にご紹介しているように、緑の部分に色域指定を行って、黄緑の方向に補正を掛けるという方法もあります。また本サイトで提供しているツールとして、汎用色チャンネルマスク作成ツールを公開しております。このツールで緑色透過マスクを作成し、そのマスクが透過する範囲に対してG値とB値が離れるよう補正を掛けることで、緑を黄緑色っぽく持っていくわけです。

 とはいえ、新緑に補正にするにしても、本来新緑の色がどのようなRGB値を持っているのか分からないとどの程度補正したらよいのか分かりません。という訳で新緑の写真を撮ってきましたので、それぞれの場所のRGB値をレファレンスとして示しておきたいと思います。なおこの値はRawTherapeeのカラーピッカーを使いました。またRGB値は100%表記になっています。0-255の値に換算するにはこの値に2.55を掛けてください。また値はsRGB式知覚的ガンマ補正が掛かっていることを前提としています。なお、数字が見にくいときは、画像をクリックすると拡大するかと思います。

 まず、晴れの時の新緑の写真です。

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写真1

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写真2

 

  光が当たって、透明に輝いているほど、R, Gの値に対するB値の比率がかなり低いことが分かります。写真1では、輝いている部分はB値で、10%前後(8bitのスケールで20~4, 50前後)で、時に1桁台も見られます。写真1の右側の輝いている木は紅葉の木なので、元々R成分が高く、B一方成分が低いのかもしれません。一方影の部分の多い、あるいは黄色く輝いている部分の少ない写真2では全般にB値が上がっています。樹種の影響があるのかもしれません。

 次に曇天時の新緑写真です。

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写真3

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写真4

 写真3ですが、中心にある樹種はやはり紅葉です。曇天でもB値は低いままです。ただ、R, G値が低めになっています。写真1では60~70%台(8bit相当で160~230程度)だったものが、写真3では40~60% (100~160) 前後が多くなっています。暗くなった分RGB値の絶対値は下がってもR,G,Bの相対的比率はそんなに変化がないようにも思われます。

 写真4では、R, G値が光の当たっている場所では意外に値が下がっていません。しかし黄色みは写真3に比べて少なく、B値が写真3より高めとなっています。B値が高いと黄色みが少なく白っぽくなり、暗めでも黄緑系ならB値は低いという傾向がはっきりしています。

 ここで、この正常な写真1に、Bチャンネル再建法を掛けてどれぐらい色が変化するかを試してみました。その結果が下図です。

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写真1にBチャンネル再建法適用

 青の値がG値に近づいて上がったことで、全体に白っぽくなり彩度が下がって漂白された感じになります。鮮やかな感じは失われますが、全然だめという訳でもありません。RGB値も計測してみます。

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上記写真のRGBを計測

 オリジナルの写真では、新緑部分で10%台前後だったB値が50%(8bit相当値で130~150)前後に上がっています。30%ポイント(8bit相当値で75前後)程度上昇した計算です。もちろん、この値の上昇は一律ではなく、元々BとGの値の差が少なければこんなに大きな上昇はありません。また青空の部分のようにB値がむしろ下がっているところもあります。

 それを、RawTherapeeを使って復元を試してみます。

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RawTherapeeで復元中

 霞除去を掛けて彩度を上げるとともに、RGBカーブを使い、Bの中域以下の値を下げる一方、高域は、若干持ち上げてみました。新緑は主にBの中域であるのに対し、青空は高域なためです。

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RawTherapeeによる復元結果

 一応、鮮やかな感じは戻りましたが、下のオリジナルと比べると、やや黄色味が勝っているような気がします。Bの値は若干下げすぎかもしれません。また空の青はセリアンブルーに寄っています。オリジナルより若干こってりした色調になりました。オリジナルと比較して見なければこれはこれで十分OKになる画像かと思います。もうちょっと時間をかけて調整すれば、もっとオリジナルに近くなるかもしれませんが、とりあえずここで打ち止めしておきます。

 ただこのような調整過程は、実際に黄変した写真を復元するときの参考になると思います。もしオリジナルが全般的に黄変していれば、ここまでBチャンネルの中域以下の値を下げなくても良いということです。また黄変部、非黄変部が分かれている場合は、Bの調整量を黄変しているかどうかで場所によって変えないと*1うまく新緑の鮮やかさは復元できないということになります。

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オリジナル

 また、上の正常なファイルから疑似的な黄変ファイルを作成し、それをBチャンネル補正法に掛けてみました。結果は以下の通りです。

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疑似黄変ファイル:
画面の一部のB値を50 (8bit相当、%表示で20%ポイント弱) 引き下げ

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疑似黄変ファイルをBチャンネル補正法に掛けた結果

  B値を下げた部分の値が、下げていない部分と比較したときの相対的差が縮まって(50→約15に)黄変が目立たなくなっています。当然ながら、この結果を元のような鮮やかさに戻そうと、一律にBチャンネルの値を下げれば黄変も戻ってしまいます。従って、この結果だけ見ると、黄変ネガ写真の補正にはBチャンネルへのGチャンネルの混入は必要ないのではないか、単に、黄変部透過マスクを掛けて、B値を上昇させればよいのでは、と思われる方もおられるかもしれません (もっとも黄変部透過マスク作成ツールも筆者が考案したものですが... )。

 しかし、Gチャンネルの情報をBチャンネルに混入するのは、Bチャンネル値の非黄変部との相対的差を縮めるのが主目的ではありません。人工的に作った疑似的な黄変デジタル画像とは異なり、実際の黄変フィルムは、Bチャンネル画像の輪郭自体が崩れていたり (ぼやける、油絵のマチエール状になるなど)、元々の色分布の在り方も本来の在り方と変わってしまっていたりするわけで、フィルムの黄変部は単純にB値が下がっているわけではありません (人工的な疑似黄変デジタル写真は該当部分のB値を一律に下げているため、輪郭や色分布の崩れはありません)。その崩れを補正するという目的で、GチャンネルをBチャンネルに混合するのです。つまり、その崩れに、従来損傷の大きい不均等黄変写真が補正できなかった理由があるわけです。

 逆に言えば、黄変していたとしても、Bチャンネル画像の輪郭崩れや色分布自体の変化が少なければ、Bチャンネル再建法ではなく、黄変部透過マスクだけ掛けてB値を上昇させれば (あるいはグローバル補正で黄変部分が目立たない程度にごまかせば) さほど問題ない、ということになります。

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*1:具体的には、一旦Bチャンネル補正法を適用した画像ファイルに、黄変部の透過量が少なく、非黄変部の透過量の高いマスクを掛けたうえでB値を下げることになります。このようなマスクを作成するツールは以下のページで公開しています。

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