例えば、自分が取った写真をWebに載せた時に、どうも思ったような色が出ないということがあります。そこであれこれRaw現像ソフトをいじってみるかと思いますが、なかなか納得がいかないことが多々あります。
しかし、「正しい」色を写真で実現するのは実は考えておかなければいけない要素がたくさんあって結構難しいです。
そもそもあるデバイスで見ている色は本当に正しいのか、という問題があります。例えばパソコンで見るとあまり気にならないが、スマホやタブレットで見ると色がおかしい、というようなことがあると思います。そこで、スマホ等でちゃんと見えるように一所懸命写真に補正を掛けることが生産的かどうかというと、必ずしもそうとは言えません。
まず、各デバイスで「正しい」色を実現するためには次の2条件が満たされることが必要です。
1. ソフトウェア的にカラーマネジメントがしっかり行われていること。
2. ハードウェア的に、カラーキャリブレーションがしっかり行われていること。
スマホで見た写真がおかしくても、それはもともとデバイスで色の調整が行われていないからおかしい可能性があります。それに合わせて色を調整したとしても、おかしなデバイスに合わせて色を調整しているわけですから、それで調整した結果が適切かどうかは疑問があります。
まず、カラーマネジメントですが、いまOSベースでカラーマネジメントをしっかり行っているのはMac OSです。Windowsは、Windows Vista以降、カラーマネジメントのためのライブラリを提供していますが、それを利用するかどうかは各アプリケーション任せとなっています。以前のWindowsで写真ファイルを見るときにOS標準だったWindowsフォトビュアーは、カラーマネジメント的に優等生でしたが、現在デフォルトとなっている「フォト」は、カラーマネジメントは全く行われておらず、むしろ退化しています。
スマホ等では、iPhoneに関しては、iPhone7, iOS10以降からカラーマネジメントが利用できるようになっていますが、それ以前は非対応です。またおそらくカラーマネジメントが有効と言っても、カラーマネジメント非対応のiPhone6以前との互換性確保を考えると、MacOSのようにOSレベルで管理しているのではなく、単にライブラリ提供にとどまっているのではないでしょうか。標準アプリはカラーマネジメントに対応している可能性が高いですが、対応していないアプリもあるものと思われます。Androidは8.1以降カラーマネジメント対応となっていますが、やはり対応するかどうかはアプリ任せのようです。
なお、iPhone7以降は、Display P3という新しい色空間が標準となっているようです。sRGBより広いようですが、Adobe RGBと比べると広がっている部分もあり、狭い部分もあるようです。
さらに、カラーマネジメントに対応していたとしても、ハードウェアでカラーキャリブレーションがしっかり行われていないと、そのデバイスでちゃんとした色が出ているかどうかは分かりません。
私の場合、PCのモニタは、EIZOのsRGBフル対応のFlexScanで、付属のツールを使って簡易的なキャリブレーションを行っていますが、本格的なキャリブレーションを行うにはツールを購入して調整する必要があります。
以下のサイトが参考になります。
EIZOのColorEdgeシリーズだと工場であらかじめキャリブレーションを行って出荷している上、キャリブレーション用センサーとのセット販売もあります。
同様に、Apple Pro Displayも工場であらかじめキャリブレーションを行って出荷しているそうです。
スマホやタブレット等も同様です。例えばスマホの場合、同じ機種であってもディスプレイの調達先が異なる可能性があり、当然、それによってディスプレイのハードウェア的色特性も異なりますので、個体別にキャリブレーションを行う必要があります。
これについては、上と同じサイトですが、こんな情報を提供しているページがあります。
カラーキャリブレーションがちゃんと行われていないPCモニタやモバイルツールを使っていて、色がおかしいと悩んでみても、はっきり言って生産的ではありません。色がおかしくても、割り切るべきです。カラーキャリブレーションが行われていないモニタやツールに合わせて色を調整しても、かえっておかしくするだけだからです。
逆に言えば、色についていろいろ悩むなら、カラーマネジメントが行われているソフトウェアを使い、かつカラーキャリブレーションができているモニタを使うというのが最低限の出発点になります。
簡単にまとめると、
カラーマネジメントができているということは、
ファイルで採用している色空間が異なっても、そのデバイスでは同じ色が同じに見えるよう調整される。あるいはカラーマネジメントに対応しているソフトウェアで見ている限りは、同じファイルが、ソフトウェアによって違う色に見えることがない (但しそのデバイスでの出力が客観的に正しい色かどうかの保証はない)。
カラーキャリブレーションができているということは、
そのデバイスで見える(出力されている)色が、本来の意図通り客観的な色と対応するようになる。
ということです。