省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

darktable 機能解説: カラーバランスRGB (Ver. 4.2.1 準拠)

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 darktable の標準的カラー調整モジュールの中でも一番分かりにくいのがこのカラーバランス RGB です。マニュアルには、カラーグレーディング (演出的調色) 編集を行う際に、最初にスタートポイントとなる画像を作るために、色被りなどを補正して、色調に誇張のない自然な画像を得るために使うべきなのはカラーキャリブレーション・モジュールであり、本モジュールは、それに基に演出的色調調整を行う、第2次調整編集に使うべきだ、ということと、色の原理についてちゃんと理解していない初心者は使うべきでないと指摘されています。なお、以下のキャプチャは Ver. 4.2.1 で作成しています。

 カラーバランス RGB には マスター、4ウェイ、マスクの3つのモードがあります。

3つのモード

 まず、マスターから解説していきます。

1) マスター

マスターのダイアログ

 マスターの下の、色相シフト、自然な彩度、コントラストは、画像全体に基本的に及ぶ調整です。

 次のリニアなクロマの調整は、色相や輝度を一定のまま、彩度を調整する機能で、全体、もしくはそれぞれ、シャドウ、中間、ハイライトの輝度ゾーン別に調整します。リニアRGB値に基づいて動作します。

 その次の知覚的なサチュレーションの調整は、色相は一定のままですが、輝度とクロマを知覚的色空間で動かして見た目の彩度を調整します。知覚的RGB値に基づいて動作します。

 知覚的ブリリアンス(鮮やかさ)の調整も、色相は一定のままですが、輝度とクロマを知覚的色空間で動かして見た目の鮮やかさを調整します。しかし調整の方向はサチュレーションと直交する方向になります。知覚的RGB値に基づいて動作します。と文字で説明してもサチュレーションとブリリアンスの関係は分からないと思いますので (この点はオリジナルの英文マニュアルを読んでも同じです) 以下の図をご覧ください。

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Saturation と Brilliance の関係

 ブリリアンスの調整は、基本サチュレーションは一定に保ちますが、明るさを動かすことにより (明るさを動かすことで必然的にクロマも動く) 鮮やかさを増します。一方サチュレーションの調整は、ブリリアンスは一定に保ちますが、色相を一定に保ち (放射線の点線上は同一の色相を表します)、RGB間の最大差を拡大することで (おそらく最低値を下げるとともに最高値を上げ、全体としては明るさが動かないように調整)、彩度を増す調整を行うものと考えてよいでしょう。そして、上の図をご覧になるとブリリアンスとサチュレーションが直交しているのが分かると思います。

 理屈としては分かっても、では実際に画像としてはどうなるのでしょうか?

まずオリジナルです。

オリジナル

クロマを約20%上げます。

クロマ上昇

見た目の赤みがやや抑えられ、青みが増した印象です。上の図を見てもクロマを動かすと色相もずれますのでこうなるのでしょう。

今度はサチュレーションを20%上げます。

サチュレーション上昇

印象としてはクロマ上昇とあまり変わりません。上の図を見ても、クロマとサチュレーションの方向は似ているので (しかも両方とも「彩度」ですので) 当然でしょう。若干明度は下がっているはずですが、はっきり分かるほどではありません。

次はブリリアンスです。

ブリリアンス上昇

 クロマやサチュレーションとは明らかに印象が違い、明るさが増した印象であるのと、空や緑はやや黄色味を増したような印象です。おそらく数値的には色相は変わっていないものと思われますが、目で感じる色相はちょっと変わってきます。

2) 4ウェイ

4ウェイ ダイアログ

 次は、4ウェイですが、機能的には ART のカラー/トーン補正と非常に近いと思います。

yasuo-ssi.hatenablog.com

 まず、全体に対する効果と、輝度ゾーン別 (ハイライト、パワー[中間]、シャドウ) の4つの調整部門に分かれており、それぞれ、輝度、色相、クロマの調整に分かれています。

 マスターと 4 ウェイの違いですが、基本的には切り口の違いであり、機能的には、厳密には異なりますが、実質的な機能の多くは被りますので、自分にとって分かりやすいどちらか一方を使えばよいと思います。また混ぜて使うと、何が何だかわからなくなる可能性が大です。

 全体は、画像全体に効果が及ぶのと、パラメータを動かすと各ピクセルに対し、所定の値を加算することで色調を動かします。

 ハイライトとシャドウは、それぞれハイライト域、シャドウ域に限って各パラメータを調整します。もう一点、全体と異なるのは、各ピクセルに対し、所定の値を乗算(掛け算)することで色調を動かします。

 パワーですが、上に[中間]と注釈をつけましたが、実は全体に及びます。しかし、各ピクセルに対して所定の乗数 (Power) を掛けることで色調を動かします。要はガンマ補正(但しおそらく輝度だけではなく、色相、クロマに対しても)を掛けることで色調を調整するものと思われます。この場合中間ゾーンに対して最も効果が大きくなります。この辺りの仕組みは、ART や RawTherapee も同じです。

 

3) マスク

マスクのダイアログ

 上の2つのモードとは異なり、このダイアログは直接色調を調整するものではありません。上の2つで、ハイライト、中間、シャドウと別々に調整できる機能がありましたが、要は、この、ハイライト、中間、シャドウを区分するマスクを調整する機能です。なお、マニュアルには通常は動かさないようにと注意書きがあります。

 シャドウ、ハイライトのフォールオフは、シャドウ、ハイライトの範囲を調整する変数です。マスクのミドルグレー支点とは、中間グレー点を指定するもので通常は、リニア RGB で、18.45%で固定です。全体に非常に明るい画像、あるいは逆に暗い画像の場合は変更の必要があるかもしれません。

 ホワイト支点とは、ディスプレイ参照の場合の 100%ホワイト点を EV値で指定します。この値を下げると、ハイライトクリップする領域が増えます。

 コントラストのグレー支点とはコントラストを増やしたり減らしたりする場合、値の上昇・下降させる時の分岐点で、通常はマスクのミドルグレー支点に一致させます。

 その下のマスクプレビューの設定は、マスク表示をさせる際の表示のさせ方に関するパラメータです。

 また、一番上に[彩度の方式]という項目があります。これは実はマスクとは関係ないのですが、通常動かすことのない項目なので、ここに設置されています。darktable USC と JzAzBz のどちらかが選べます。

 

 なお、タイトルの右側のハンバーガーメニューをクリックすると以下のプリセットにアクセスできます。どのようにパラメータを設定したらよいか迷う場合は、以下のプリセットから設定を選ぶと、自動的にそれぞれの設定に最適なパラメータ設定をしてくれます。初心者はマニュアルでパラメータを設定するのではなく、こちらを選んで適用するのが良いでしょう。

プリセット

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 なお、darktable は大半のモジュールでマスクを掛けたり、モジュールの複数のインスタンスを作成することができます。

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