前回に引き続き、黄変ネガカラー写真補正過程をお示しします。今回サンプルとして取り上げるのも、Bチャンネル再建法の紹介ページに事例として挙げていたものですが、前回と異なりかなりクセのある画像で、ちょっと補正に苦労するものです。これも今回追加補正部分を汎用色チャンネル補正マスク作成ツールを使ってやり直しました。Bチャンネル再建法紹介ページの例示も今回の補正結果に入れ替えています。当初色々試行錯誤しましたが、最終的にRawTherapeeを使うことでまとめてみました。標準的な補正過程とは言えないと思いますが、何かの参考になるかと思い過程を公開します。
■素材画像の紹介
この写真はやはりフィルムスキャナ Dimage Scan 5400IIで取り込んだものです。ドライバは純正のものを使っています。おそらく元々オリジナルの状態では空の部分の黄変の程度がひどく、スキャナ用純正ドライバの自動補正機能が空の黄変部分を補正しようと全体にブルー方向に相当程度補正を掛けたとみえて、かなりカラーバランスが崩れてしまっています。空の黄色味の程度自体は、これでも相当程度補正されているものと思われますが、黄変の影響がない、あるいは少ない部分はその反作用で大きくブルーに傾いています。
Vuescanだったらもっとましな取り込みができたと思いますが...
一旦、R,G,B分解を掛けてみます。
Bチャンネルの画像自体は意外としっかりしていて、黄変褪色の損傷程度は中程度と判定できます。やはり大きいのはスキャナドライバの自動補正による副作用のようです。
■Bチャンネル再建法の適用
そこでまずBチャンネル再建法用の補正素材ファイル作成ツールを以下のパラメータで走らせます。暗部補正の閾値は当初50で走らせましたが、このファイルの場合それでは濃すぎたので、20にして走らせ直します。それ以外はデフォルト値です。
バックグラウンド補正マスクは、近景はすべてマスクするように編集を掛けます。
オリジナルBチャンネル+近景+遠景+暗部補正レイヤーを合わせて以下の補正Bチャンネル画像を作成します。
この画像にR, G画像を合わせてRGB合成すると下記のようになります。
ここでBチャンネル再建法の出番は終了です。黄変はほぼ消えましたが、スキャナ自動補正の反作用による全体の青みは当然ながらBチャンネル再建法では修正されませんので、相変わらず全体的に相当ブルーに偏っています。この後補足補正に入ります。
■GIMP上での汎用色チャンネルマスク作成ツールを活用した追加補正
今回の記事ではここ以降の説明が、肝要な部分になります。まず、画像全体がブルーに傾いている程度がひどいので、一旦RGB値を測定します。
草などの緑の部分のRGB値が、Bが突出して高く、G, Rが低くなっています。これが新緑であればG, Rが高く、Bが低いところなので、まったく反対です。この写真は6月に撮っているので、新緑ではありませんが、その場合はGとBの差が新緑ほど大きくなく、GとRの差が広がっているのが正常だとは思いますが、ともあれBが突出しているのは異常です。この画像は根本的にB値が極めて高すぎるのが問題ということです。
ここから汎用色チャンネルマスク作成ツールの出番です。この補正を掛けたファイルを基に、特に色の冴えない緑部分を補正するマスクを作成します。
緑の部分をカバーできるようにGチャンネルの0-96の範囲で、Gの閾値を+50 でG透過マスクを作成しました。閾値を高めにしているのは、植物の緑の部分がかなり青緑~青によっており、+30程度だとカバーしきれない可能性があったためです。
まず、ローカル補正を掛ける前に、とにかく全体にBチャンネルの値が高すぎるのでそれをグローバルに補正します。ただし、空の部分はもう少し高くてもよいので、Bチャンネルに対しトーンカーブ補正ツールでS字状にトーンカーブを掛けます。これにより青被りがある程度改善されます。
さらに、ローカル補正に移りますが、今回のケースはスキャナドライバがかなり自動補正を掛けたおかげでB値以外も狂っている可能性がありますので、それ以外のチャンネルも大胆に補正を掛ける必要があります。
上のG透過マスクをかけたレイヤーに対しR, G, B値をトーンカーブで補正していきます。
G, R値は上げて植物の色を軽くしていく一方、B値はかなり大胆に下げていきます。
また、画像の左端にマゼンタの線状の汚れが入っているのが気になります。それを除去するために汎用色チャンネル補正マスク作成ツールでマゼンタ透過マスクを作ります。
上の画像を元に、マゼンタ汚れ除去用マスクを編集します
このマスクをつけたレイヤーに対し、G, R値をトーンカーブで補正します。マゼンタ汚れはG値が低い部分ですので、G値をトーンカーブで上昇させます。またR値は若干上げたほうがより効果があるようでしたので、ごくわずかに上げています。
こうして、上から順に、Mg補正レイヤー、G補正レイヤー、グローバル補正レイヤー(BチャンネルS字補正)を重ねて、1枚のレイヤーにまとめ、さらに微調整としてGIMP上でホワイトバランスの自動調整を掛けTIFFファイルに出力します。
ここまでで一旦GIMPでの補正を終了します。だいぶ改善しましたが残りの補正はRawThrepeeに持ち越します。
■Raw現像ソフト上での調整補正
出力したTIFFファイルをRawTherapeeに読み込みます。そこで一旦露出調整と自動ホワイトバランス調整に掛けます。
再度、全般的に、Bチャンネルに対しトーンカーブを使って、S字補正カーブを掛けます。青被りが一挙に解消されます。
さらに、ミドルトーンを中心に輝度を上昇させます。L*a*b*調整のトーンカーブを使いました。通常のトーンカーブではなくL*a*b*調整のトーンカーブを使う理由は、カーブをいじってコントラストを変化させるときに、色相の意図しない変化を防止できるためです。逆に現在のカラートーンに不満足な場合は、色相の変化を期待して通常のトーンカーブを使うこともあります。
これで暗めで重々しかった画像がだいぶ明るくなりました。
空が若干ピンクがかっているのと、植物の緑を改善するためにカラートーン調整で、色相をやや黄緑寄りに補正します。
以上の補正を経て、最終的に出力したのが以下の結果です。
比較のためオリジナルを再掲します。オリジナルに比べると圧倒的によくなっています。
今回は補正量も多く、途中で結構補正にああでもない、こうでもないと迷いました。当初はdarktableをGIMPを交互に使って補正したりしたのですが、最終的にRawTherapee で調整を掛ける形にしました。トータルでは、一からやり直したりして迷った時間を考えると、前回の事例よりもかなり時間がかかりました。ただこのような補正経験を積んでいけば、徐々にもっと早い時間で補正できるようになるかもしれません。補正方針に迷いがなければ、補正に1時間かかることはないと思います。
今回グローバル補正ではB値をいじるのと、あとはRaw現像ソフトのホワイトバランス調整を掛けることで対処しましたが、このようなケースの場合、スキャナドライバがいろいろ自動補正をやってくれてしまっているので、グローバルにB以外のチャンネルの値をいじった方が良い場合もあると思います。また、以前お示しした人工的に黄変を作ったケースでは、B 以外のチャンネルは正常であることが保証されていますので、B値をいじれば良いだけでした。しかし、このようにスキャナドライバが全体の色調を大きく変えてしまっている場合は、B値をいじるだけでは済みませんので、どう補正したらよいのか迷う可能性が格段に増え、補正の難易度が上がります。スキャナドライバの自動補正にも功罪があります。単純にR, G, Bのレベルを整える程度だとありがたいのですが...
このように補正に迷う場合は、やはり基本はしっかりR,G,B値を測定し、そして正常なケースにおけるR,G,B値と比較して、しっかり補正方針を決めるべきかと思います。いきなり何らかのカラー補正モジュールに手を出して闇雲に動かすと補正の迷宮に入ってしまう危険性が高いと思います。
また、個人的な感想かもしれませんが、オリジナル画像のカラーバランスがこのようにかなり狂っている場合は、最終調整は darktable で調整するよりも、 RawTherapee で調整するほうがピンと来る結果が得やすいように思います。
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ともあれ、4月に汎用色チャンネル補正マスク作成ツールを開発した後、Bチャンネル再建法と組み合わせて、かなり広い範囲の黄変ネガカラー写真の補正とカラーバランスのコントロールができるのではないかという自信がついてきました。今までBチャンネル補正後の画像のカラーバランスのコントロールがあまりうまくいかず、その逃げ道としてRawTherapeeのフィルムシミュレーションを使っていたところもありましたが、今後は逃げ道としてフィルムシミュレーションを使う必要性は少なくなりそうです。
理論的に考えると汎用色チャンネル補正マスク作成ツールと似たようなことができる(筈の)、他のソフトウェアの調整モジュール(の組み合わせ)もあるにはあるのですが、個人的には自作のツールが一番使いやすいように思います(当然か)。基本はRチャンネルを使ったマスクならR値の上下を行うことが、Gチャンネルを使ったマスクならG値の上下を行うことが調整の基本になる、という意味で分かりやすいと思います(実際には基本を逸脱している部分も多いのですが...)。
やはり黄変フィルムを抱えて困っているという方がいらっしゃいましたら、ぜひお試しください。
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