今回補正過程を例示する写真は、飯田線旧型国電の走行写真です。まずオリジナル写真を提示します。
おそらく伊那本郷駅近くで撮った写真だと思います。この写真もクハユニ56の写真と同様、かなり黄変褪色が進んでいて、黄変が画面の大半を覆うとともに、周辺のBチャンネル情報抜けも進んでいます。クハユニ56の写真と異なるのは、この写真は風景写真で、植物の緑が多い点です。なお、フィルムの取り込みは Vuescan + コニミノ Dimage Scan 5400IIで、Vuescan上で褪色復元にチェックを入れています。
これに対し、Bチャンネル再建法を適用した結果が下記です。
Bチャンネル再建の際は、周辺情報抜けレイヤーは使用していますが、暗部補正レイヤーは使用していません。この時点でのこの画像の問題点は、基本的にはG-B値接近により植物の緑が冴えない点、および電車のブルーが緑に寄っている点で、特に電車のブルーと色の濃い植物の色がほとんど変わらない状態になっています。あと微妙に空がピンクがかっています。そこで次に汎用色チャンネルマスク作成ツールを使ってマスク画像を2枚作成します。1枚は植物の緑補正マスク、もう1枚は電車のブルー補正マスクです。
まず電車のブルー補正マスクから。
電車以外の部分を塗りつぶしてマスクを作成します。
このマスクを掛けたレイヤーに対し、トーンカーブ補正を使って、B値を引き上げ、G値を引き下げてB-G値の差をつけます。
青みがはっきりしてきました。このレイヤーが最も補正範囲が狭いので、一番上にします。
次は、植物の緑補正マスクです。
このレイヤーは電車のブルー補正レイヤーと反対方向の補正を行わなければなりませんので、電車部分を塗りつぶして補正マスクを作成しました。このマスクを使って以下のような補正を掛けます。
まずトーンカーブを使って、B値を思いっきり引き下げます。これだけで植物の緑がだいぶ軽くなります。
次に、若草色を強調するためにG値、R値を補正します。G値は適正値からさほど離れていないようなので、ごくわずかに引き上げます。上げすぎると、植物のマイクロコントラストが塗潰され、ニュアンスが失われてしまいます。さらに若草色を強調するためR値を若干上げます。今回のケースではR値をやや高い部分を中心にG値よりも多めに引き上げるのが適正値のようでした。
最後はグローバル補正です。
B値50%を境に下はB値を引き下げ、上はB値を引き上げ、緩やかなS字カーブを掛けます。しかしかなり空のピンクが強調されてしまいました。
そこで、R値の中間以上に限ってR値を若干引き下げて空のピンクを減少させます。
ここまで来たところで、空の右端部分の不均一感が気になりましたので、急遽、空の補正レイヤーを追加してみました。
まず、空の補正用マスクを、汎用色チャンネルマスク作成ツールを使って、Bチャンネル範囲175-222 / Y閾値+60で画像を作成し、さらに空以外の部分を塗りつぶして作成してみました。つまりマスクの黒っぽい部分(=補正量の少ない部分)はB値の高い部分、(但し真っ黒な部分は補正非対象部分)、白っぽい部分(=補正量の多い部分)はB値が低い部分(青みが相対的に少ない部分)です。閾値が+60と高いのは、黄色みのない部分において、相対的にB値が低い部分を透過させるマスクを作りたいためです。単に黄色の部分を透過させるマスクを作りたければ+10~20程度と低いほうが適正です。空の補正用マスクを作成してみると、周辺部補正部分との境界を中心に意外に不均一なことが分かります。この補正レイヤーの目的は、この不均一を多少なりとも改善するのと(青みが強いほうに合わせる)、空がピンクに寄るのを改善するのが目的です。そこで、このレイヤーに対し、Bを若干引き上げる一方、RとGを若干引き下げました。Gの補正は上げるべきか(マゼンタを少なくする方向)下げるべき(グリーンを少なくする方向)かかなり迷ったのですが、結果的にGをやや引き下げることにしました。
ただ、後から考えると、B値が低い部分を透過させるマスク (Yマスク) の代わりにB値の高い部分を透過させるマスクを作り、B値を引き下げる方で均一化し、全体のB値の高低は、グローバル補正で調整する、という方法もあり得たかもしれません。
また、Vuescanでスキャンした黄変画像ファイルについては、Bチャンネル再建法適用後、マスクを掛けて空のピンク成分を積極的に除去したほうが良いのかもしれないと思いました。
そして下からグローバル補正レイヤー、植物の緑補正レイヤー、、空補正レイヤー、電車のブルー補正レイヤーの順に重ねて一枚のレイヤーを作ります。さらに1カ所中間部分に白くほこりか傷が見られましたのでResynthseizerを掛けて補正し、TIFFファイルとして出力します。以下が出力結果です。空の右端部がやや不均質ですが、一旦GIMPでの補正を終了します。
このファイルをdarktableに読み込み、最終調整を行います。darktableの補正は、darktable超入門でも書きましたが、露出調整→ホワイトバランス調整→フィルミックRGB調整の順に補正を掛けていきます。まず自動露出補正を掛けます。次にホワイトバランスを調整します。
当初、ホワイトバランスの自動補正を掛けたところ、全体にピンクがかってしまいましたので、デフォルト(カメラのホワイトバランスに従う)値から、若干青みがかる方向に色温度を調整したところで止めました。
最後にフィルミックRGBでコントラストを調整します。
まず、sceneタブで自動調整を掛けます。これでほぼ良好な結果が出ましたが、ややコントラストが高すぎるようでしたので、lookタブに移って、若干コントラストを軟化させて調整を終了しました。これでファイルに出力します。
最終出力結果は以上のようになりました。右端部の違和感は完ぺきには補正しきれていませんが、大幅に少なくなりました。元が損傷しているフィルムですので、100%完ぺきな補正はあり得ません。それを考えればかなり健闘していると思います。下の再掲したオリジナルと見比べてみてください。鉄道写真としては架線の緊張を保つためのワイヤーが邪魔になっていますが... まぁ、あくまで変色補正サンプルとしてご覧ください。
なお、色数の変化は、
オリジナル: 1,414,613色
補正1: 619,888色
補正2: 762,276色
最終出力: 944,288色 (以上adobe1998 / 約7500 x 5000ピクセル ベース)
となりました。
なお、このような補正で難しい点は、最後にRaw現像ソフトでコントラスト調整をするときに結構色が変わります。そのあたりをGIMPでの調整段階でどう斟酌するか、という点です。微妙な差が拡大されたり、逆に差が大きくても最後にうまくカバーできたりといろいろです。論理的にはミッドトーン域の色の差は強調され、ハイライト域は、逆に多少のアラがあっても目立たなくなるはずですが、実際には全体の色調との兼ね合いで最後までやってみないと分かりません。GIMP上では違和感が少なくても、Raw現像ソフトでコントラスト調整を行うと違和感が強調されることもありますが、一方その逆もあり得ます。最後まで行って、やはり違うとなって、再びGIMPでの編集段階に戻ってやりなおすこともしばしばです。この辺りの迷いがなければ1枚当たり20分程度で補正が可能になるのですが...
← クハユニ56011画像 再補正- 新・黄変ネガカラー写真補正過程例示(5) へ戻る
軽微な黄変の補正 - 新・黄変ネガカラー写真補正過程例示(7) へ行く→