目次: ART を使った不均等黄変ネガフィルム画像の補正テクニック
(1) チャンネル再構成で黄色味を消す
(7) 追加補正: スキャナ起因のマゼンタかぶりの補正 (本ページ)
(8) 追加補正: 狭まった B チャンネルのダイナミックレンジを復原する
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さて、今まで黄変、および青変の補正方法について解説してきました。これはいずれも B チャンネルの補正です。しかしここからは B チャンネル以外の追加補正方法について解説していきます。
ただ、追加補正は、あまり決まりきったパターンがなく、元の画像によって編集パターンが変わってきます。
今回はスキャナの癖としてありがちなマゼンタ被りを修正する事例を紹介します。なお、マゼンタ被りはよくネガをスキャンした時に見られる傾向ですが、複数の原因がありえます。それに応じて補正の仕方も考えた方が良いと思います。
主なマゼンタ被りの要因ですが、以下のようなものが考えられます。
1) そもそもネガフィルムの特性と電子センサーの特性のずれ、もしくはスキャナの癖に起因するもの
2) フィルムスキャナドライバが、黄変している画像のホワイトバランスを取ろうとして、青い方に画像を傾けた結果、元々赤味のある部分 (赤、オレンジ、褐色など) がマゼンタに傾いた。
3) フィルム黄変部分がややオレンジがかっており、B チャンネル再建法で黄色味を除去した結果マゼンタ汚れが痕跡として残った。
4) 本来オレンジや褐色だった部分が、黄色味を除去した結果、マゼンタとして残った。
5) 単純にネガフィルムの褪色で、B チャンネルのダイナミックレンジが下がり、オレンジ~赤系の色がマゼンタとして残った
とりあえず、今回は、1), 2) を中心に、他の要因についてもコメントを挟みながら解説をしていきます。また、3) と 4) が起こる原因は全く同一ですが、補正の方向性は全く異なります。3) はマゼンタを消す方向に補正する一方、4) は黄色味を復活する補正が必要です。5) の場合は、黄色もマゼンタに寄って冴えなくなる一方、青みも薄れるという特徴があります。
以下は今までサンプルとして使ってきた画像です。B チャンネル修正後も全般的にマゼンタに傾いています。これはスキャナを使ってスキャンした場合によくみられるケースです。
全般的にマゼンタがかっていますが、線路付近は本来赤さび色だったものが暗いマゼンタになっています。これはオリジナルからマゼンタに傾いた状態でした。また電車の車体の青もマゼンタが混じってやや紫がかっています。マゼンタを補正するには、それと補色関係にある緑の方向にずらしてやればよいのですが、全画面を均一に緑に傾けるだけではだめそうです。というのは青い部分は若干緑に傾けるだけで良いかもしれませんが、線路の本来赤錆色の部分は、緑身を増すだけではなく、黄色味を増したり、赤みを増す必要がありそうです。つまり青く塗装された部分と、線路部分はちょっと編集の仕方を変えたほうが良いと思います。大体人工的な塗色は、それ以外の部分と編集を変えた方が良いケースが多いです。
一旦、新しい編集インスタンスを追加し、それに相対色領域補正を割り当て、さらに対象色領域にマゼンタを加えると下記のようになります (対象領域表示モード)。
ただ、線路部分とそれ以外で編集を変えたほうが良さそうなので (つまり、線路部分の原因は上の 2) または 1)、それに対しそれ以外は 3) に該当しそうなので)、一旦パラメータ指定マスクで青い部分を編集から除外するようにします。
そしてグリーンチャンネルの緑身を増すだけではなく、黄色味、赤みも増すようにスライダーを動かします。すると線路の赤錆色が再現されます。
次に今の編集インスタンスをコピーします。
そしてパラメータ指定マスク (色相) を反転させ、先ほどのインスタンスとは反対の領域を下記のように領域指定します。
こちらはグリーンスライダーを緑の方向に動かすだけにします。
車体の青の濁った感じは補正されました。ただ、横須賀線色の青15号の色味がちょっと違う気がします。これだと、初期の横須賀線色の青2号に近いような気がします。そこで、この部分だけ修正するインスタンスを加えます。
相対色領域補正のインスタンスを追加し、対象色領域を青にします。すると下記の範囲が指定されます。ガンマ補正を掛けて車体の青い部分の透過度が高くなるようにしています。
次のエリアマスクを組み合わせて、選択範囲を車体部分に限ります。
対象領域表示を消し、ブルースライダーを青方向に動かします。すると青の塗装部分が改善されました。
最後にトーンカーブなどを補正し出力した結果が下記です。
なお画像によっては、カラー/トーン補正の知覚的、もしくは標準モードでカラーホイールをマゼンタの補色のグリーン側に多少寄せることで補正できるケースがあるかもしれませんが、その場合でも上の様にペイントで塗られた部分はマスクをして補正量を変える必要が出てくる可能性が高いです。一般に人工的な塗色等は、他の部分と補正の仕方を変える必要がある場合が多いので要注意です。
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このツールのダウンロード先は以下にあります。以下、2タイプあります。できるマスクは同じですが、補正の仕方が異なります。必要に応じて使い分けてください。
また、マニュアルは以下をご覧ください。
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なお、これと同等の補正は ImageJ 対応相対 RGB 色補正マスク作成ツール + GIMP でもできます。相対 RGB 色補正マスク作成ツールでマゼンタもしくはブルーマスクを作成し、GIMP 上で、マスクを掛けたレイヤーに対しトーンカーブやレベル補正を使って補正していきます。
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