目次
1. 本連載記事の概要
3. 写真補正の原理 (本記事)
4. Bチャンネル再建法による不均等黄変・褪色ネガ写真補正の方法
5-1. Bチャンネル再建法による具体的な補正実施手順 - 準備
6. 追加マニュアル補正の実施
番外編. ART のみを使った B チャンネル再建法による不均等黄変画像の補正
補足. GIMPの代わりにPhotoshopで不均等黄変画像の編集を行う
3. 写真補正の原理
3.1 色の原理
通常私たちは色を光を通じて認識しています。光の場合、色を表現する三原色は赤(R)、緑(G)、青(B)で、これで色を表現するのをRGB色空間と称しています。これ以外に印刷においてインクで色を表現するためのCMYK色空間、その他がありますが、ここでは扱いません。そしてRGBそれぞれの色の光(以下、RGBそれぞれをチャンネルという)が混ざり合って各色を表現しますが、それをパソコン上でどのように表すかというと、8bit画像の場合、各チャンネル(R, G, Bのそれぞれの色のこと)の濃度(明るさ)が8bit、つまり0-255の数値で表現されます。最も暗い値が0、最も明るいが255と定義されています。そして真っ黒は、R,G,B各色が0、つまり(0,0,0)で定義され、真っ白は(255,255,255)と定義されます。真っ赤は(255,0,0)、真緑は(0,255,0)、真っ青は(0,0,255)となります。そしてRGBのそれぞれの値の混合具合で、様々な色が表現されます。因みにそれぞれの補色は、シアン(0,174,239)、マゼンタ(255,0,255)、黄(255, 212, 0)です。なお、16bit画像の場合は各チャンネルが0-65535の値を取ります。以下の記事では煩雑になりますのですべて8bit画像を前提として説明していきます。
例えば、こちらの写真は、カラーに問題のない比較的近年にデジカメで撮った写真ですが、上からRGBのヒストグラムをつけたオリジナル画像、そして、R, G, Bの各チャンネルごとの画像です。オリジナルの画像に真っ赤だとか、真っ青というような人工的な色が目立たない場合は、通常、RGBのヒストグラムは似た形を描きます。ただ全く同一になることはありません。同一になるとすればグレースケール(モノクロ)画像です。この画像の場合はディーゼル機関車の朱色が目立つせいかRの曲線が若干GやBと乖離していますが、それでもおおむね相似した形になっています。
ところで、私たちが色を赤っぽく感じたり、青っぽく、緑っぽく感じるとはどういうことでしょうか?これは絶対的な値で決まるわけではなく、あるチャンネル要素の他のチャンネル要素との相対的関係で決まります。例えば赤っぽいとはどういうことかというと、Rチャンネルの値が、G, Bに比べ相対的に大きな値を取るということです。重要なのは255が最も赤みが強く、0が赤みがないということではない(つまり絶対値で決まるわけではない)、ということです。例えばRの値が128のときに、G、Bがそれぞれ50であれば赤っぽくなりますし(R 値が、G, Bより相対的に高いので赤くなる)、G、Bがそれぞれ200であればシアンっぽくなる (R 値が、B, Gより相対的に低いのでシアンになる)、ということです。またBの値が128の時に、R、Gがそれぞれ50なら青っぽくなりますし (B 値が、R, Gより相対的に高いので青くなる)、200なら黄色っぽくなるということです (B 値が、R, Gより相対的に低いので黄色くなる)。上の機関車の写真でも、オリジナル画像で青い部分が 、Bチャンネル画像で他のチャンネルより明るくなっているのが分かると思いますが、それは、Bチャンネルの値がR, Gよりも高いということを意味しています。従って青く見えるのです。
3.2 不均等黄変・褪色の原因
なので、黄変しているということは、その部分は本来のBの値より低くなっているか、あるいは黄変部の周囲が本来のBの値より高くなっているということですし、周辺部の青抜け、あるいは青紫抜けは、青色色素が褪色した結果、本来のB値より高くなっているということです。スキャナは通常ある程度オリジナルの画像を補正して読み込みますので、補正の結果黄変が目立つというようなことも起こりえます。いずれにせよどのようにおかしくなっているかは、変褪色した画像をRGB分解してみればある程度見当がつきます。
以下、変褪色した画像のケースです。
空の部分を中心に黄色く不均等に変色しているほか、右端が紫色っぽくなっており退色しているのが分かります。ヒストグラム的には、R, G, B大体似たような形をしているので問題なさそうですが、R,Gと異なり、Bが255近くで急増するというパターンを示しており、青の色素 (ネガでは黄色) の褪色による影響の可能性があります。RGB分解をしてみるともっと問題点がはっきりします。
RGB分解してみますと、R,Gチャンネルは比較的問題がないことが分かりますが、Bチャンネルの異常は自明です。Bチャンネルの右端部が褪色 (明るく脱色) しています。これがヒストグラムでBの255に近い部分が跳ね上がっている原因だったのです。その結果、本来よりBチャンネルが明るくなってしまったため青紫色に褪色しています。また空の黄変は、BチャンネルがR,Gチャンネルよりも暗くなっているためであることが分かります。これは青の色素 (ネガ上の黄色の色素) 自体が黄色く変色した可能性もありますが、これはあくまでも推測ですが、青の色素が周辺部分で褪色したため、スキャナがホワイトバランスを取ろうとして本来の青の値よりも暗く「補正」した可能性も考えられます (あるいはその両方)。
これ以外に、Bチャンネルの暗部の飽和がみられるケースがあります。本来ならば最暗部は0近い値を取らなければならないのが、25や50どまりになってしまうようなケースです。
この写真のケースは、R, Gチャンネルの最暗部が5前後なのに対し、Bチャンネルの最暗部は25前後と明るく浮き上がっています。こうなると暗部が青紫色になり、暗部の締まりがなくなってしまいます。それでもこのケースはBチャンネルが明るく浮き上がっているだけで、暗部のディティールはさほど潰れていませんが、明るく浮き上がった上に暗部のディティールが潰れてしまうケースもあります。単純に明るく浮き上がっているだけなら、Bチャンネルの暗部の値をレベル補正等で引き下げれば済みますが、ディティール自体が潰れていると引き下げだけでは済みません。
結局ディティールが潰れるほどBチャンネルの褪色がひどい場合は (黒潰れにせよ、白潰れにせよ)、いくらトーンカーブを調整してもそれだけでは元の画像を再現することは不可能です。何らかの方法でBチャンネルを再建する必要があります。