省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

決定版! 不均等黄変・褪色ネガ写真のデジタル補正術 (2)

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目次

1. 本連載記事の概要  

2. 今まで紹介されてきた経年劣化による変褪色写真の補正術 (本記事) 

3. 写真補正の原理  

4. Bチャンネル再建法による不均等黄変・褪色ネガ写真補正の方法

5-1. Bチャンネル再建法による具体的な補正実施手順 - 準備

5-2. 具体的な補正実施手順 - ImageJによる作業

5-3. 具体的な補正実施手順 - GIMPによる作業

6. 追加マニュアル補正の実施

補足. GIMPの代わりにPhotoshopで不均等黄変画像の編集を行う

補足. Bチャンネル再建法 補正ツール簡易版

補足. 標準的なBチャンネル再建法(+汎用色チャンネルマスク作成ツール)による黄変写真補正過程

2. 今まで紹介されてきた経年劣化による変褪色写真の補正術

 もともと変褪色写真の補正に関心を持ったのは、以前(2017.9)「高尾山麓日誌」の記事に書いた通り、5年ほど前に、昔の鉄道写真のネガフィルムを一挙にスキャンしてファイルにしてみたところ、結構黄変していたのを発見したのがきっかけです。均等に褪色していればフォトレタッチソフトでの補正も可能なのでしょうが、ポリエステルのフィルムスリーブの可塑剤のせいか、スキャンしてみると、前回のサンプル写真のように不均等に黄変しているケースが多数発見されました。また、同時にフィルム周辺が青または青紫色っぽく変色しているケースも多くみられました。

 そこで変褪色写真のデジタル補正について扱ったネットのサイトを調べたところ、比較的組織的に手法を紹介しているサイトとして、例えば次のようなサイトが見つかりました。

鈴木写真変電所
http://www.filmscan-print-s.com/
 このサイト主は趣味が高じて、フィルムスキャンを仕事にされた方のようです。SYLKYPIXを使った黄変写真の補正について事例提供をしているほか、フィルムスキャニング方法の比較、ビネガーシンドロームを起こしたフィルムの対策についても論じています。
具体例のページ http://www.filmscan-print-s.com/B01-BN-SLKY10-1.html


碧海電子鉄道
http://www.ne.jp/asahi/hekkai/rail/index.htm
 このページの権現港というところにフィルム補正の記事があります。不均等に黄変した写真に対し、かなり細かく丁寧なマスクを作って細分化して色彩補正を掛ける手法を紹介しています。
 http://www.ne.jp/asahi/hekkai/rail/gongen/gongen.htm (6.1~3)

 

生産性向上委員会 - 画像編集/レタッチ

https://tech-review.click/category/%e7%94%bb%e5%83%8f%e7%b7%a8%e9%9b%86-%e3%83%ac%e3%82%bf%e3%83%83%e3%83%81

 こちらのページでは、Photoshop Elements による黄変写真のレタッチの方法やスキャナの設定などを丁寧に紹介されています。それでもB(青)チャンネルの情報がかなり失われたケースでは、補正は無理と指摘しています。

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(フィルム補正の基本情報を紹介したサイト)

平間フォトレタッチ事務所
「ネガフィルムをドライバーの自動処理でスキャンした写真のレタッチの手順の例」
(カラーマネジメント実践ブログ 〜フォトレタッチの現場から〜 2017.1.6)
https://omoide-photo.jp/blog/scan-retouch/
 こちらの記事はフィルムの黄変補正について直接扱っているわけではありませんが、スキャンしたフィルム写真のレタッチの仕方について、基本の「キ」の字について説明しています。この記事以外にも写真のレタッチやカラーマネジメントに関して役立つ情報を発信しています。必見です。Silver Fastなどマニアックなフィルムスキャニングソフトの解説まであります。情報提供者はフォトレタッチ専業の会社です。

 フィルムスキャニング関連の記事は
       https://omoide-photo.jp/blog/category/scanning/

 

アクティブスタジオ
「思い出の写真の色が、、、ネガは知らず知らずに色が変わる???」(銀塩大好き)
http://d.hatena.ne.jp/sacano-hidetoshi_19/20131113/1384358769
 このページはデジタル補正の話ではなく、アナログネガフィルムプリンターにおける褪色ネガの補正プリントの話ですが、参考になります。ブログ主は小平にあるアクティブスタジオという、アナログプリントを維持している写真スタジオです。

 

 一部のプロによる発信を除くと、なぜか、多くの記事が鉄道マニアによるもので...。それはともかくどの記事を見ても、程度が軽微なものを除いては、不均等黄変の補正が可能と論じている記事はありません。むしろ程度の激しい不均等黄変の補正は無理というのが共通の結論のようです。

原理的な観点から見た、不均等黄変・褪色補正法の主な種類 (2020.10追記)

グローバル補正法 (フォトレタッチソフトを使った通常の補正)

フォトレタッチソフトに備えられたホワイトバランス調整やトーンカーブ、色彩レベル補正といった色彩補正機能を使った、画面全体(グローバル)に掛ける通常の補正。不均等変退色の程度が激しくなければ、グローバルな補正でもごまかせるが、激しいとごまかしきれない。なお、Paint Shop Proには[色あせ補正 (Fade Correction)]という褪色補正に特化した機能があるほか、Photoshopサードパーティーから発売されているプラグインにも褪色補正機能を備えたものがある。

 

明度(輝度)ゾーン別補正法  (この項 2021.2加筆)
 画像全体に対し補正を掛けるのは、グローバル補正法と同じだが、特定の明るさの領域のみに補正を掛ける方法。例えば黄変が明るい空の領域のみに限定されている場合は、明るい領域のみに対してのみ色補正すれば、明るさが中間~暗い部分には補正の影響を受けずに済む。
 具体的には、シャドウ域、中間域、ハイライト域に分けて色相を調整するツールがを備えたフォトレタッチソフトがある、(例えば、GIMP, Photoshop, darktableのカラーバランスツール)。あるいは、もっと細かく調整したい場合は、レイヤー編集をサポートするフォトレタッチソフトウェアであれば、輝度マスク(Luminosity Mask)を使って、特定の明るさの領域のみに補正を掛けるという方法もある。筆者が作成したImageJを使った輝度マスク画像作成ツール(GIMPPhotoshop等レイヤー編集をサポートしたフォトレタッチソフトで利用可能)はこちら

 

マニュアル色塗り補正法

・変色した範囲に対し、マニュアルで色を塗ったり、マニュアルで範囲を指定して色を変換させたりしてローカル(局所的)に補正する。変色範囲が広かったり、形が複雑だと膨大な手間と時間がかかる。また補正範囲と非補正範囲の境界線を自然に見せるために細心の注意が要求される。

 

画像情報や色域指定を活用したマスクを使ったローカル補正法

・画像情報や色域指定を活用したマスクを作って変色部分の補正範囲を指定し、それに対して局所的(ローカル)に色彩補正機能を適用することで変色部分を補正する。マニュアルではなく、画像情報等を活用して範囲を指定するので補正範囲の境界を人工的ではなく自然に見せることが可能。このようなマスクを、R, G, Bチャンネルや輝度画像などから、一から作ることも可能だが (筆者の過去のその事例) 面倒なので、マスク作成の手間を減らす各ソフトウェアに備わっている機能、ツールをどう活用するかがポイント。どのソフトウェアのどのツールを使うかでできるマスク (補正適用範囲) のつくり方に差が出る。Bチャンネルの毀損が激しかったり、情報抜けがある場合はこの方法でも補正しきれない可能性がある。

具体例:

PhotoshopGIMPなどの色域指定選択や、Paint Shop ProのRGB値による自動選択を使って範囲指定し、トーンカーブ等の色彩補正を実行する (変色範囲以外も指定される可能性があるので、それを除外する手段の併用が必要)

Nik Collection VivezaNikon Capture NX-Dのカラーコントロールポイントを使った補正

SILKYPIX (Proバージョンのみ) の部分色域選択機能を使った補正

○レイヤーマスクによる黄変部分補正法 (当サイト別記事)

 

■Bチャンネル再建補正法 (当記事)

・Bチャンネルの情報抜けに対応可能な唯一の補正法。またBチャンネルの毀損が激しく、他の方法では補正しきれない、あるいは膨大な手間がかかりそうな場合に有効。但し、GチャンネルとBチャンネルの値が接近する副作用があるので、画像によってはG, Bチャンネルの値を離す追加補正が必要になる場合がある。

 [以上、補正難易度が低いものから高いものへ適用可能な順]*1

上記補正手法分類別に、比較した記事を公開しました。ご参照いただけると幸いです。下記のリンクをクリックしてご覧ください。(2020.11)

 やや軽度な事例 :
  不均等黄変ネガ写真を様々な方法で補正してみる [手法比較事例紹介]

 やや重度な事例:
  不均等黄変ネガ写真を様々な方法で補正してみる2 [手法比較事例紹介]

 

 以上、従来紹介されてきた補正法は、基本的に、 で分類した、「グローバル補正法*2もしくは「マニュアル色塗り補正法」に属する補正方法です。従って、激しい不均等変褪色の補正は困難と結論付けられるのも、当然かと思います (2020.10追記)。

 因みにCiNiiに「写真」「変退色」で検索を掛けると、一番近そうな論文として「GISを 組み込んだカラースキャナによる劣化カラー写真画像の復元」なる論文がヒットしましたが、当然直接参考になるような内容ではありません。

 また、海外のサイトも探してみましたが、均一に褪色したフィルムの補正法に関する記事はたくさんありますが、不均等に黄変・褪色したフィルムに関する情報は探せませんでした。おそらく、日本は高温多湿であるうえ、ポリエチレン・ネガシートが一般的に普及していたのが日本特有の事情だからではないでしょうか。欧米ではグラシン紙 (パラフィン紙) のネガシートが一般的なようです。また、KodakAgfa のフィルムの方が不均等黄変を起こすケースが少ない (ない?) ように思います。私の手持ちのフィルムでも不均等黄変が起こっているのはフジとサクラのネガフィルムのみです。同じ保管方法でも Kodakのフィルムでは起こっていません。

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 これに対して、私はブログ「高尾山麓日誌」に不均等黄変に対する補正術を発表しました (2017.9~)。内容は次の三点です。

1) 色チャンネル情報を使ったマスクを通じてトーンカーブ等の色補正を掛ける方法

2) Nik Collection VIVEZA2 を使って不均等な色補正を掛ける方法

3) 消失した色チャンネル情報を他チャンネルの情報から流用して再建する方法

 まず、1)に関してですが、ペイントツールで細かくマスクを作って補正するにしても、黄変・褪色部分がグラデーションになっていると、ペイントツールで作成したマスクを使って補正するとどうしても不自然になってしまいます。これについては『Photoshop 色調補正ゼミナール』に、御園生大地氏による「『画像マスク』を使って選択範囲を作る」(http://shuffle.genkosha.com/software/photoshop_navi/color/8754.html)という記事があるのを見て、色チャンネルの情報を使えば不自然にならないマスクを作れるのではないかと考え付いたものです。

 これについて解説した私の記事は下記のとおりです。なお、当時は色彩に対する理解が不十分で間違ったことを書いている部分があります。

「黄変したネガフィルムスキャン画像をPhotoshopを使って修正する」
(6)
http://blog.goo.ne.jp/yasuo_ssi/e/7a78b75bd7c6573696beafe9a1a5e4fa
(7)
http://blog.goo.ne.jp/yasuo_ssi/e/484e49d09744a96456e94bdeae470845
(8)
http://blog.goo.ne.jp/yasuo_ssi/e/abef48879db7dce35dfd7dbf272456e7

また実例サンプルはこちらになります

http://blog.goo.ne.jp/yasuo_ssi/e/5023fba39d042f036c0ffdc59a5e08b5

https://blog.goo.ne.jp/yasuo_ssi/e/f31fcb5a8cc8950854a7c8735ff2f727

 次に、2)に関してですが、色補正術に関していろいろ考えたり、検索したりしているうちに、Nik Collection というPhotoshop用のプラグインが無料で公開されているという情報を得ました。それで導入したところ、このプラグインのうちVIVEZA2が不均等にかつグラデーションをつけて色補正を掛ける機能があることが分かって、このような不均等黄変補正に有効であることを確認しました。そこで紹介したのが以下の記事です。

「NiK Collectionが黄変フィルムスキャン画像の補正に使えそう」2017.10
https://blog.goo.ne.jp/yasuo_ssi/e/affe5ec5100734a6c61c2c4514a6fb38

「NiK Collection Viveza2の基本使用法 (in Photoshop)」2017.10
https://blog.goo.ne.jp/yasuo_ssi/e/5f0dba36df6b67ae01c35307855bb18a

GIMPでNik Viveza2を使って黄変・褪色フィルムを補正する」2017.10
https://blog.goo.ne.jp/yasuo_ssi/e/833c5d1a2792201ca8f1d596337f3664

 

 なお、GIMPにおける、Nik Collectionの使い方については、以下にまとめて記事にしておきました。関心のある方はご参照ください。

yasuo-ssi.hatenablog.com

 以上 1), 2) の補正法は、使っているツールや方法は異なるものの、原理的に本連載の (1)で分類した、「画像情報や色域指定を活用したマスクを使ったローカル補正法」に属します。1) では、元画像より一からマスクを作っていますが、どのソフトウェアのどのツールを選べば、変色部分の形や程度に適合するマスク (補正範囲) が作れるか、作りやすいかがポイントとなります 。使うツールや補正方法によってできるマスクは異なりますが、基本的な原理は同じです。1), 2)以外にも同原理のツールや補正方法はあり、これについては、(1)をご参照ください。但し、これらのどのツールを使っても、Bチャンネルの情報抜けなど、Bチャンネル画像の毀損が激しい場合、補正が困難な場合がありえます (2020.10追記)。

 最後に3)に関してです。フィルムの端のBチャンネル情報の消失 (=一定範囲においてBチャンネルの明暗差が失われること) に伴う、青または青紫っぽくなる色抜けを何とか修正できないかと考え抜いて考え付いたのが、Bチャンネル情報を部分的に、他のチャンネルの情報を流用して補正・再建できないかということでした。これについては、下記のサイトに紹介記事を書きました。

Photoshopを使った黄変・退色写真補正テクニック - 追加」
http://blog.goo.ne.jp/yasuo_ssi/e/ef04ce814b541a51232f1eac14e8999d

Photoshopを使った黄変・退色フィルム補正の実例(2)」
https://blog.goo.ne.jp/yasuo_ssi/e/42e0c21e67b82108dcec221e91d930a8

 原理的には、この最後の補正法が、これから紹介する「Bチャンネル再建法」の原型になります。Bチャンネル再建法という補正テクニックは、上の1)と3)のテクニックのハイブリッドによって生み出したものです。

*1:なお、色チャンネルの毀損が1チャンネルのみであれば何らかの方法で補正可能ですが、2チャンネル以上毀損している場合は、モノクロ写真に着色するのと同様な考え方で対処するしかありません。

*2:なお、経年変化による褪色具合が画像内で不均等ではない場合、つまりグローバル補正法が有効な場合、これを補正する最も強力なツールは、私の試した範囲ではVuescanの褪色復元オプションです。Photoshop自動カラー補正もそこそこ使えますが (但しバージョンはCS4でその後進化している可能性があります)、それ以上に強力です。なお、Paint Shop Proにも[色あせ補正 (Fade Correction)]という機能が搭載されているようですが、使用していないので効果のほどは分かりません。但し、以下のサイトでは、褪色補正という点でベストなのはPaint Shop Proだと推薦していました (2020.11の記事修正でその記述は削除されました)。

windowsreport.com