省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

決定版! 不均等黄変・褪色ネガ写真のデジタル補正術 (6-1) (2023.2バージョン)

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[お知らせ]

 この記事には以下の新版があります。

yasuo-ssi.hatenablog.com

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目次

1. 本連載記事の概要 

2. 今まで紹介されてきた経年劣化による変褪色写真の補正術 

3. 写真補正の原理    

4. Bチャンネル再建法による不均等黄変・褪色ネガ写真補正の方法                

5-1. Bチャンネル再建法による具体的な補正実施手順 - 準備   

5-2. 具体的な補正実施手順 - ImageJによる作業

5-3. Bチャンネル再建法による具体的な補正実施手順 - GIMPによる作業

6-1. 追加マニュアル補正の実施 - 補正不完全の原因分析と追加補正方針の決定 (本記事)

6-2. 追加マニュアル補正の実施 - 追加編集作業の実際

補足. GIMPの代わりにPhotoshopで不均等黄変画像の編集を行う

補足. Bチャンネル再建法 補正ツール簡易版

補足. 標準的なBチャンネル再建法(+汎用色チャンネルマスク作成ツール)による黄変写真補正過程

 

[お知らせ]

 本稿は、以前のバージョンから、内容整理のため、周辺褪色補正に関する技術解説を別個独立させ、記述を一部改訂したものです。

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6. 追加マニュアル補正の実施

6.1. 補正不完全の原因分析と追加補正方針の決定

 以上で、私のオリジナルなBチャンネル補正法技術の一通りの紹介は終わりました。後は、全般的にホワイトバランス調整、色温度調整、そしてトーンカーブ等の色調補正を掛けていけば完成となります。場合によっては追加補正が全く必要がない場合もある一方、、中にはそれだけでは不足し、細かいマニュアル補正が必要なケースが出ます。以下そのような追加補正がどうしても必要なケースを2ケース(6-1-1と6-1-2)に分けて解説します。

6.1.1. G-B値接近のため補正した色が冴えない

 前回書いたように、本補正技法の根本的な問題 (副作用) としてGとB値が近づいてしまうという特徴があります。例えば、真っ赤はOKですが、真っ青、真緑はNG。またG > Bの場合でRの値が高い場合は肌色~褐色系統、Rの値が低い場合は黄緑~緑系統、逆にB > Gの場合は、Rの値が高いものから低いものの順にピンク~藤色~青系統あたりが該当しますがこれらも問題になります。例えば、肌色やピンクが特に苦手です。また鮮やかな若葉色などもくすみます。この辺りの解説は、こちらの記事をご覧ください。濃い青や、紺色に関しては、2022年7月にリリースした Ver. 4.x 以降、オリジナルの B の値が補正イメージより高い場合、補正をスキップするマスクを掛けているので改善しているはずですが、しかし濃い青が強く黄変している場合はこの限りではありません。

 ですので、このような色彩が画面の重要な役割を果たしている場合は、追加マニュアル補正は必至と言えるでしょう。ただ、失われていたBチャンネルの情報は、正確でないにせよ再建されていますので、トーンカーブ等の色彩調整で何とかなります。

 前回、このような追加マニュアル補正が必要な典型例の写真を掲出させていただきました。前回の写真は、以下のブログに補正困難な典型例として掲載されているものを、一旦本ブログで紹介している技法を使って補正を掛けたものでした。以下のブログの筆者のudiさんのご厚意で許可をいただいて掲載しております。これら転載許可を頂いて掲載している画像、ならびにそれを加工した画像については一律転載禁止とさせていただきます。またすべての記事内容についてWebやその他出版物への無断転載・公開は禁止させていただきます。

udimac.livedoor.blog

 

前回の写真のオリジナルは次のようなものです。フジのHR400を使って撮られた写真のようです。

 

これを一旦フォトレタッチソフトの自動カラー調整に掛けてからRGB分解すると次のようになりました。

 
R (赤) チャンネル
 
G (緑) チャンネル
 
B (青) チャンネル

 私もかつて褪色の激しい写真で散々トーンカーブ調整に迷った挙句途方に暮れた経験がありますので、おそらくかなりの時間を費やされて苦労されたものと思われます。このサンプルは、Bチャンネルを見ますと激しく損傷しているのが分かります。このようなケースではいくらトーンカーブ調整に時間をかけてトライ&エラーを行っても絶対に適正な結果を得ることができません。因みにGチャンネルが一番しっかりしており、Rチャンネルも若干荒れていますが何とかなる範囲です。そこで、本補正法でBチャンネルを再建した結果が以下の通りです。なお、この写真には遠景域がありませんので、遠景補正レイヤーはかけていません。

再建Bチャンネル

 若干不自然なところはありますが、圧倒的に情報量が増えています。でこれをR, Gと合わせてチャンネル合成したのが前回の写真だったのです。ですがB, G値の接近のため情報量自体は増えていますが、おかしい結果になっているわけです。ところで健全な色彩ならどのようになっているはずなのでしょうか?やはりudiさんのサイトの写真の中で、おそらく同じお祭りで別のフィルム (Kodacolor) を使った写真 (オリジナル掲載元) と比較しますと次のようなことが分かります。

 
色が適正な例
値は 0~ 255 表示

今回の補正例
※値は 0~100表示。 0~255表示に直すには、2.55を掛ける

 この比較では、それぞれの写真の、部分部分の色彩のRGB値をスポイトツールで測って示しています。上の色彩が適正な例では、肌色に関して言うと、明部ではGとBの差はそんなにありませんが、中暗部でGとBの差が40~50の差があるのが分かります。しかし補正例ではGとBの差がわずかで、場合によってはBがGが上回るなど逆転しており、全般的に肌の色がどす黒く見えます。法被のG/B差はそこそこありますが、もうちょっと差があっても良いように思います。

 また全体にマゼンタがかっているようです。

 ですので、この写真の場合の追加補正方針は、肌色のB値をかなり落とすことと、法被の色のB値を多少上げること、さらにマゼンタを落とすことになります。

 このようなG-B値の接近による問題は、画像処理ソフトの類似色マスク (あるいは特定色域範囲指定) を使った補正ツールを使うか、もしくは、拙作の相対RGB色マスク作成ツールトーンカーブ (もしくは色レベル) 調整を組み合わせて調整していきます。

 

6.1.2. 黄変ダメージが他チャンネルにも影響を与えるケース

 Bチャンネル再建法では、Bチャンネルのみ修正します。しかし、実際には黄変が他チャンネル、特にGチャンネルにも影響が残り、黄色を取り去った後にマゼンタの変色が明らかになる場合があります。これは黄変が化学的変化であるためです。

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黄変除去後にマゼンタの汚れが残った事例

同上

 これを追加補正で取り去っていく必要があります。この除去方法については次の、6.1.4で論じる、ネガカラーフィルム画像によくみられるマゼンタ被りの除去方法と共通します。

 

6.1.3. スキャナ等の癖のため、全般的に色被りが残る

 ネガカラーフィルムは印画紙を感光させたときに最適な結果が得られるよう調整されています。しかし、それはデジタルデバイスでスキャンを行ったときに必ずしも良好な結果が得られることを意味しません。

 Nikonを除く多くのコンシューマー用フィルムスキャナ、および一部の業務用フィルムスキャナは白色LED光源でスキャンを行いますが、これだとネガカラーフィルムで最適な結果を得ることができません。これはデジタルカメラでネガカラーフィルムのネガデュープを行った場合も同様です。フィルムスキャナーの場合、スキャナドライバで調整を掛けているようですが、その結果、全般的に色がマゼンタに寄る傾向が見られることが多いようです。上の6.1.3のサンプルも、黄変に伴うマゼンタ汚れだけではなく、全般的なマゼンタ寄りが同時に発生しています。

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ネガカラーフィルムに見られるマゼンタ被りの典型例

 さらにフィルムの黄変がひどい場合は、それをスキャナドライバが自動調整して、さらにマゼンタが強くなったり、ひどいときには強い青紫の青被りが見られるケースも見られます。

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スキャナによる過剰補正(マゼンタが青紫化)の事例

 Bチャンネル再建法で黄変は取れますが、黄変修正後もこのようなデジタルデバイスの癖による色被りは残ります。それを追加補正で修正していく必要があります。

 なお、ネガカラーフィルムのデジタルスキャンによくみられるマゼンタ被りの補正方法に関するリンクは以下にあります。

yasuo-ssi.hatenablog.com

調整方法の詳細は次回です。