さて、黄変ネガカラー写真補正の練習問題も3回目に入りました。今回が最終回です。この回では、Raw現像ソフトによる最終調整を扱います。前回申し上げましたように、筆者は、画像編集において、トーンジャンプの補間効果があるRaw現像ソフトでの最終調整を行っています。なお、ここから始めたい方は、こちらに前回までの補正を適用した練習用ファイル(sample_ueda_補正2.tif)を用意しましたので、ご利用ください。なお、このファイルについては、黄変補正の練習のためには自由に使っていただいて結構ですが、加工成果も含め、インターネット (SNS, ブログ等) にアップするなどの無断転載ははお断りします。
なお、Raw現像ソフトはここでは筆者が日本語翻訳を担当している ART を使用します。ただ使い慣れたTIFFファイルの編集に対応した Raw現像ソフトがあるなら darktableでも RawTherapee でも構いません。但し、そもそも特定のカメラ専用ではない汎用のフリーのRaw現像ソフトを使ったことがないという方には、ARTをお勧めします。というのはメニューやパラメータ設定等が必要最小限のものに絞り込まれていて、機能やパラメータ設定が分からなくて立ち往生する、という可能性が最も低いからです。かといって、大半の写真の編集では、ARTで機能が不足することはないと思います。
ART自体の情報については、以下をご参照ください。
yasuo-ssi.hatenablog.com ここでは、ARTのインストールが既に終わっているという前提で進めます。今回の出発点はGIMPでの編集を終えた以下の画像ファイルです。
オリジナルファイルと比べると大幅に改善していますが、まだ空の一部など元の変色を彷彿させる色の段差が残っています。これの改善をなるべく図ります。
■ARTでの画像の読み込み
ARTを起動するとファイルブラウザ画面になりますので、左上の[ファイルブラウザ]という部分をクリックし、次いで、その横でドライブを選択し、さらにその下でファイルのあるフォルダを選択します。
上のように画像の一覧が出たら、読み込みたい画像のサムネイルをダブルクリックし、編集画面に移ります。サムネイルの上にカーソルを持っていくとファイル名が表示されます。
なお、Windowsの場合、以下の記事をご覧いただき、コンテキストメニュー (ファイルを指定して右ボタンを押すと表示されるメニュー) から ART でファイルを読み込めるようにすると、もっと簡単に開けます。
■ARTでのホワイトバランス調整
とりあえず、ART で読み込んでホワイトバランスの改善を図ります。まだうっすらマゼンタが残る空の中央付近を基準にホワイトバランス調整を行ってみます。カラータブにある[ホワイトバランス]の[ピックアップ]ボタンを押してから、画面中の基準点となる場所をマウスでクリックして下さい。なお、カラータブは、右上、[処理プロファイル]の下の左から三番目のアイコンです。
■緑色の調整
さらに、緑色ですが、若干青いほうに傾いています。遠景の山の緑はこの程度がちょうどよいと思いますが、手前の草や、元東急の緑色の車体はもうちょっと黄緑寄りのほうが良いと思います。そこで、ローカル編集タブにある、カラー/トーン補正を使います。なお、ローカル編集タブは、右上、[処理プロファイル]の下の左から四番目のアイコンです。
カラー/トーン補正をオンにし、まず類似色マスクで、電車の緑色の部分をピックします。マスク表示をオンにすると、黄色で指定範囲が表示されます。範囲も1.5とやや広げています。
後ろの山の緑は除外したいので、引き続き、エリアマスクをオンにして、下記のように範囲から後ろの山を除外します。下図では類似色マスクとエリアマスクの重複領域にマスクが掛かっています。
なお、エリアマスクをオンにすると、一旦マスクの黄色いエリアが消えます。これは類似色マスクとエリアマスクの重複領域がマスクとして指定されるので、エリアマスクをオンにした瞬間はまだエリアマスクが指定されておらず重複領域が存在しないためです。エリアを指定するとすぐマスク表示が復活します。
ARTのマスク編集操作の詳細は以下の記事をご参照ください。
マスク設定が終わったら、マスク表示のチェックを外し、カラー/トーン補正のカラーホィールを動かして、緑を黄色っぽくします。
ちょうどいい感じになりました。
■空の段差の調整
それと、空の段差がまだ気になります。そこで、まずマスク領域をもう一つ増やします。
これにはカラー/トーン補正のすぐ下の、マスク 補正というダイアログの右側の + マークをクリックすると、マスク領域が増えます。そうしたら再び類似色マスクを作成します。今度は空の右端の青っぽい部分をピックします。そして[範囲]を調整してマスクのかかる範囲を調節します(下図)。
空の中央付近がやや紫~マゼンタ寄りで、右端との差がくっきりしていますので、指定した範囲を、カラーホイールを使ってごくわずか赤紫寄りにします。
空の区切りがやや目立たなくなりました。さらにトーンカーブを使ってコントラストを調整し (下図)...
...さらに周辺光量調整を使って、空の左右端の明るさをやや上げます。
これでだいぶ空の段差が小さくなりました。
■ファイル出力
ここで最終的なファイルに出力します。出力には画面左下のフロッピーマークのアイコンをクリックします。すると以下のように、ファイル出力形式やファイル名等を指定するダイアログが出ますので、必要事項を入力し、OKボタンを押して出力します。
以上の最終結果が下記の画像です。
黄変はほぼ完璧に消え、空の段差の解消は、完ぺきではありませんが、オリジナルファイルを見ていなければ気が付かない程度には消えているかと思います。
なお、全体的な色調を変えたいという場合、ARTやその他のRaw現像ソフトでは、フィルムシミュレーション機能も使えますのでその点でも便利です。例えば以下は Kodachrome 64のフィルムシミュレーションを適用した結果です。
全般に赤みがかりました。ART のフィルムシミュレーション機能の解説は以下をご覧ください。
ここまでの解説をご覧いただいて、大変そうに思えるかもしれませんが、一度手順通りにやって頂いて、要領が分かるとそれほど大変ではないとお分かりいただけるかと思います。
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