・スキャナソフトであるVuescanは、デジタル一眼カメラで撮ったネガフィルムファイルのネガポジ変換およびRaw現像にも使える
・Vuescanは、比較的強力なフィルム褪色補正機能も備えている
・Vuescanでネガ画像ファイルを読み込ませ変換するときの読み込ませ方や設定を紹介
・他のソフトウェアの簡単ネガポジ反転ツールについても言及
Nikonでは、デジタル一眼レフカメラを使ったネガフィルムのデジタル化をサポートするツールとして、フィルムデジタイズアダプター Nikon ES-2というツールを2018年3月に発売しています。しかし D850/D780 以外のカメラではネガポジ反転をサポートしておらず*1 Capture NX-Dでも簡単なネガポジ変換の方法をサポートしていないので*2 せっかく発売したES-2もどこまで売れているか分かりません。それにちょっと価格も高いです。7~8000円、あるいはせめて希望小売価格が9,800円でしたら躊躇なく勧められるのですが... 逆に希望小売価格が19,800円なら、Capture NX-Dに、簡単ネガポジ変換機能をつけてほしいところです。実はES-2はニコン一眼でなくても使えてしまうので、それを考えてのこの価格設定なのでしょうか。
Nikonさんが、ES-2をちゃんと売る気がなさそうなのでは、せっかく発売されたツールがもったいない。そこでES-2の個人的プロモーションとして、ES-2を使った簡単なネガフィルムのデジタル化方法を指南します。
その方法とは、ネガポジ変換ツールにVuescanを使うのです。先日Vuescanのフィルムスキャナーでの利用方法を紹介しましたが、その時Vuescanはスキャナがなくても直接画像ファイルを読み込めることを発見しました。つまりVuescanを、スキャナソフトとしてではなく、デジタル一眼カメラでデジタル化したネガフィルムのRaw現像ツールとして活用しようというわけです。
1. ネガフィルムのデジタイズにデジタル一眼を使うメリットとデメリット
まず、ネガフィルムのデジタイズにフィルムスキャナではなくデジタル一眼を使うメリットとデメリットについて説明します。
まずメリットですが、何といっても読み込み時間が早いことです。フィルムスキャナで高解像度で読み込むには結構時間がかかります。デジタル一眼の場合、ドット数で考えますと、D5600, 5500, 3500, 3400でも6000 x 4000の解像度で読めますし、D850, Z7であれば、8256×5504 の高解像度です。しかも、取り込みは一瞬で終わります。
デメリットとしては、まず赤外線によるゴミとりが利用できない点です。ただモノクロフィルムやKodachromeはもともと赤外線によるゴミとりができないので*3、その点も含め、あとでレタッチソフトでゴミを取ればよいと割り切れるかどうかでしょう。そして確かにドット数としてはかなり解像度が高いのですが、実効解像度はどうなのかという点があります。フィルムスキャナのほうが、ものによりますが、より高い精度で読める可能性があります。ただ少なくともいえることは安物のフィルムスキャナーで読むよりは、カメラを使ったデジタイズのほうがベターでしょう。今、日本国内で入手可能なフィルムスキャナに関していうと、台湾のPlustek社製品以外は、カメラを使ったデジタイズのほうがベターではないかと推測します。またEPSON GT-X980あたりのフラットヘッドスキャナとの比較では、以下のサイトのページの下の方に実際に行ったNikon D850による取り込み結果と GT-X980での取り込み結果の比較が紹介されています。
なお、カメラで複写したネガファイルのネガポジ変換に関してはここで紹介する有料のVuescanの他、無料のRaw現像ソフト、RawTherapeeやdarktableもネガポジ変換機能を備えるようになりましたし、デジタルカメラで撮影したファイルはいずれにせよRaw現像しなければなりませんので、Nikon D850 / D780などのネガポジ変換機能を持つカメラでなくても問題はないと思います。なお、Vuescanそれ自体については前回の記事の紹介をご覧ください。
2. VuescanをネガスキャンRAW現像ソフトとして使うメリット
ネガフィルムは、フィルムのベースカラーが結構異なり、それがデジタイズの時に問題になりえます。D850 / D780はそのあたり自動補正機構を持っているのかどうかわかりませんが、この点もVuescanは解決してくれます。
実は、Photoshopにも、ネガポジ反転機能はありますし、ネガポジ反転したものを自動カラー調整に掛け、カラー補正を簡単に行うことができますので、単純なネガポジ転換であればPhotoshopでもそこそこ簡単です。しかし、Vuescanの補正機能は褪色補正なども含めPhotoshopの自動カラー補正より強力 (とはいえ万能ではない) でメリットが大きいです。またPhotoshopよりVuescanのほうが価格が安いというのも大きなメリットです。褪色写真の補正に関心を持っている方は褪色補正ツールとして持っておくメリットがあります。
3. カメラの設定
NikonではDX (APS-C)カメラにおいては、ES-2をAF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8Gと共に使用することを、FX (フルサイズ) カメラについては、AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED または、AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8Dと共に使うことを推奨しています。フィルムの湾曲の可能性や厚みを考えると、なるべく焦点を絞って被写体深度を深くし、シャッタースピードは遅めに設定すると良いでしょう。また、ファイルはJpegではなくRaw (NEF形式) で保存することをお勧めします。
4. Vuescanでネガスキャン画像を取り込む設定の実際
前回のVuescanの設定紹介に準じる形で紹介します。
[入力]タブ
[オプション][タスク]は上記の通り。[ファイル]にはデジタル一眼でネガフィルムを撮影したファイルをしています。@のところを押すと、ファイル選択のダイアログが上のように開きます。NikonのRAWファイルを直接読み込めます。[モード]は上記の通り[透過光原稿]。[媒体]は撮影したものがカラーネガフィルムなら[カラーネガ]、それ以外なら、[画像]で良いと思います。因みにネガを撮ったファイルを[画像]で読むと、当然ネガイメージのままになり反転してくれません。1ピクセル当たりのビットは48ビット or 24ビットでしょう。読み込んだファイルに応じてください。上図ではキャプチャしたときにうっかり64ビットRGBIままだったので、そうなっていますが無意味です。[スキャン解像度]はFullで。それ以外は、ファイルのピクセル数が落ちます。
◎フィルムベースカラーの読み込み方法
ここで、フィルムのベースカラーの読み込み方について解説します。フィルムスキャナと同様にベースカラーを設定します。ただしフィルムスキャナーと異なるのは、最も透過度の高い部分を含んだコマを撮影しておいて(ネガフィルムなら未露光のコマ、ポジなら現像されていない透明部分を含んだコマ)、それを撮影したファイルを基にベースカラーを設定します。
1) 初期化
まず、前の設定を消すため以下を実行します。
メニュー→[画像]→[メモリの初期化]
また、[入力]タブで、[フィルムベース色のロック]のチェックを外します。フィルムスキャナーとの違いは、[露出のロック]の項目がないはずです。但しフィルムスキャナーを使った直後だと残る場合があるので、その場合は[露出のロック]のチェックも外してください。
2) 透過度の高い部分を含んだコマを撮影したファイルを読み込みまずプレビューボタンを押します。
3) フィルムの最も透明度の高い部分を範囲指定します。
5) 「フィルムベース色のロック」のチェックをオンにして再度プレビューします。
6) 3)で指定した範囲指定を画面全体に戻します。
7) このあと実際に画像が映ったコマを指定し、プレビューボタンを押して読み込んで、補正が必要な場合は補正を行い、最後にenterキーを押すか、保存ボタンを押すことでTIFFファイル保存を行っていきます。
[切抜き]タブ
これもデフォルトのまま何も変更していません。
[フィルタ]タブ
ここで、[色の復元]や[退色復元]を設定します。上の図は[色の復元]や[退色復元]のチェックを外したところ。やはりフィルムの褪色が進んでいて、微妙に全般的に黄色くなっています。カメラで撮っているだけですので、Vuescan以外の補正はないはずです。従って、このフィルムの場合、フィルムのベースカラーを考慮しただけ(ホワイトバランスならぬオレンジバランス?)で取り込んで、ネガポジ変換を行うとやはりうっすら黄色くなるのが本来の褪色ネガフィルムの素の状態であるようです。
[色の復元]や[退色復元]のチェックを入れたら、色が鮮やかに蘇りました。
[カラー]タブ
フィルムベースは、フィルムベースカラーの測定結果のままです。[ブラックポイント]は0、[ホワイトポイント]は0.3 曲線低は0.3 曲線高は0.7にしてみました。フィルムのメーカーやブランドは入れていますが、褪色補正等を入れていますので無効なはずです。このあたりの設定の意味は、前回のVuescanの紹介記事をご覧ください。要は、[ブラック/ホワイトポイント]の調整は硬調・軟調 (ハイキー/ローキー)を決定し、[曲線高/低]の調整はコントラストを決定します。
[出力]タブ
こちらは基本的にフィルムスキャナーを使っているときと同じです。ここで、保存するファイル形式やファイル名を指定します(ファイル名自体は[入力]タブでも指定可。)。異なる点はRAWファイルを読み込んでいるので、RAWファイル出力オプションがないということです。[TIFFファイル]にチェックを入れているので、保存ボタンを押すと、この画像をTIFFファイルとして保存します。
以下がVuescanでネガポジ変換を行ったサンプルです。
比較対象としてPhotoshopおよびRawTherapeeでネガポジ変換を行った結果を示します。自動トーン、カラー補正やホワイトバランス自動補正を掛けています。
RawTherapeeの方がPhotoshopより良好な結果であり、色が全体的にくすんでいますが、もうちょっと補正を掛けるとVuescanに匹敵するレベルまで行きそうです。とはいえ、Vuescanの補正の簡便さにはかないません。
なお、[カラー]タブで、カラーバランスを[マニュアル]にしてもう少しカラー調整を追い込むことができるかと思いますが、それはまた後日いろいろ試してみて報告したいと思います。
ところで、本記事ではVuescanをネガ取り込みRAW現像ソフトとして活用する方法について紹介しましたが、本年(2020年)7月に発売されたSYLKYPIX Developper Studio Pro 10でも新たに簡単にネガポジ転換する機能を搭載したようです(Standard版では不可)。フィルムベース色を考慮し色彩を調整する機能も備えているようです。希望価格は、ダウンロード版22,000円、パッケージ版28,050円 (税込み) となっています。
silkypix.isl.co.jp ただ、この説明を見る限り画素数的に余裕のないカメラによるES-2による取り込みには不適のように思います。というのは透明部分を同時に撮影しておかなければならないからです。その点でもVuescanの方が、ES-2での取り込みに適合するといえるでしょう。
また、Lightroomの有料プラグイン Negative Lab Pro (価格$99)を紹介しているサイトもありました。ただVuescanも 、Lightroomはわかりませんが、Photoshoopのプラグインとして使えるんですよね。
なお、日本語の紹介ページは全く見つかりませんが、他にネガポジ反転機能を搭載したPhotoshop用プラグインとして、ColorPerfect というものもあります。
www.colorperfect.com このプラグインのColorNeg 機能を使えばネガフィルムのデジタル画像ののポジ化や画像補正が可能なようです。上のチュートリアルビデオの後ろから1/3ぐらいからネガフィルム反転機能の紹介があります。価格は Negative Lab Proより安い $67 です(この項、2020.10追記)。
あと、ネガ画像段階でフォトレタッチソフトで、フィルムベース色でホワイトバランスを取ったネガ画像を作って、それを反転すると好結果が得られると書いてあるサイトがありました。
ただ、上のPhotoshopの2番目の例でフィルムベース色でホワイトバランスをとって反転し、自動カラー補正をかけてみましたが、自動カラー補正をかけた結果は、あまり変わらないようでした。
あと、こんな記事もありました。
tripoo-net.com確かに。ES-1 + ネガフォルダーぐらいの価格でES-2は発売してほしかった。
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Keywords: フィルムスキャン, ネガデュープ
*2:但し、トーンカーブをいじれるソフト[含む Capture NX-D]であればネガポジ変換は可能。Capture NX-Dを使ったネガポジ変換のやり方を指南しているサイトとしては、例えば次のサイトを参照。
*3:Steinhoff, Sascha, 2011, "The VueScan Bible: Everything You Need to Know for Perfect Scanning" の記述によれば、Kodachromeでもその多くは実は赤外線ゴミとり機能が有効なのだそうです(但し、スキャナ内臓のDigital ICEではなく、Vuescan独自のアルゴリズムによるゴミとり機能)。ただフィルムによって、あるいは現像所によって銀成分がフィルムに多く残っている場合があり、その場合は赤外線ゴミとりがうまく機能しないということです。