省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

GIMP [平滑化] コマンドを使った緑色変色フィルムの補正

 先日、はてなブログの購読リストの「おとなり日記」に「一睡の夢:国鉄末期の12年」という新しいブログが開設されているのが表示されました。内容を拝見すると、飯田線末期の旧形国電の記録写真を中心に掲示されておられて、私の関心とも重なりますので、読者にならせていただきました。

 

 その中で気になった写真に緑色になっているネガスキャンの画像がありました。プリントでそのように褪色したものを見たことがある気はしましたが、ネガスキャンではちょっと覚えがありません。ただ、ブログを拝見する限り、ブログ主様は写真補正でかなり苦戦をされて、お困りのようにお見受けしましたので、差し出がましいようですが写真を補正させていただけませんかと申し出たところ、ご快諾を頂きました。

 その補正結果が、そのブログの以下のページの下の方に現在掲示されています。

issuinoyume.hatenablog.com

 フィルムスキャンには台湾の Plustek 社、OpticFilm 135i を使われたと伺いました。因みにフィルムスキャナーの世界も、半導体と一緒でもはや台湾メーカー頼みになってしまいました。日本人として残念なことです。フィルムも読めるフラットヘッドスキャナーはかろうじて Epson が頑張っていますが...

 以下、ひょっとすると同じフィルムスキャナーをお使いで、同様にお困りの方がいらっしゃるかもしれませんので、その参考に、補正過程について述べさせていただきます。

 当初、このパターンを補正するのは初めてですので、いくつかの補正技法を試して効果を比較しました。その結果わかったのは、以前褪色赤変ポジフィルムの補正で効果のあった GIMP の 平滑化 コマンドが一番簡単で効果的でした。実補正作業は 5 分足らずで終わります。

 なお、以前書いた赤変ポジフィルムに対する平滑化コマンドの適用については、以下をご参照ください。

yasuo-ssi.hatenablog.com

yasuo-ssi.hatenablog.com

yasuo-ssi.hatenablog.com

 また、この GIMP の [平滑化] コマンドはヒストグラム平坦化というアルゴリズムを使っていますが、その原理については以下のサイトが分かりやすいと思います。

codezine.jp なお、この記事の後の方に、ヒストグラム平坦化の欠点として色相が保たれないという指摘がありますが、じつはフィルムの修復には、この色相が保たれない「欠点」こそが補正に必要です。というのは、一般に変褪色したフィルム画像の修復や、スキャナで何も補正せずに取り込んだ画像の色を適切に補正するには、大きくばらばらになってしまった R, G, B のヒストグラムの形をある程度近い形にそろえるのが基本だからです*1。いわばヒストグラム平坦化アルゴリズムを使って自動的にR, G, B ヒストグラムの形をそろえるということがミソなのです。もちろんこの過程をマニュアルでやってもいいのですが、結構手間がかかります。

 なお、この「欠点」を防ぐために、RGB データを HSL もしくは L*a*b* に変換して、L  (輝度) データにのみ基づきヒストグラム平坦化を実施し、そのあと RGB に戻すことで色相を変化させない修正版の平坦化アルゴリズムもあるようです。しかし当然ながら、色相を保持して輝度だけ平坦化する修正版のヒストグラム平坦化アルゴリズムを採用している場合は色の修復には使えませんPhotoshop にも平均化 (equalize) という似た名前の (英語では全く同名) 機能がありますが、Photoshop の方は色の補正に全く効果がない理由は、おそらくこの修正版のヒストグラム平坦化アルゴリズムを実装しているためだと思われます。

 なお、あくまでもヒストグラム平坦化アルゴリズムの本来の目的は、ヒストグラムを平坦化して、シャドウ部の細部を見えやすくするということなので、当然のことながらヒストグラムも平坦にならされます。R, G, B のヒストグラムが揃うというのはその副作用効果に過ぎません。ですので、ヒストグラムが揃った後、必要に応じて、トーンカーブで調整を掛ける必要が出る可能性があります。またどの画像でも常に良い結果が出るとは限りませんので、その点ご留意ください。

GIMP メニュー上での [平滑化] コマンドの位置

 実際の作業はファイルを読み込んで、上のメニューにある平滑化コマンドを実行するだけで終わりです。なお、平滑化コマンドはそのアルゴリズム上どうしても色諧調の数が少なくなってしまいます。ですので、平滑化コマンドを使って修正するつもりがある場合は極力 16bit TIFF ファイルでフィルムスキャンした結果を保存しておくことをお勧めします。

 さらにこの画像の場合、若干赤みが強くなった場所がありましたので、マゼンタマスクを掛けて、その部分の G チャンネルの値を上げることで補正しました。実際には GIMP の上で平滑化を掛けた後、16bit TIFF に直して保存し、それを拙作の相対色領域補正スクリプトを組み込んだ ART で読み込んで、マゼンタ部分のG チャンネルの値を上げましたが、GIMP 上で、やはり拙作の相対RGB色マスク作成ツールでマゼンタマスクを作成しそれに基づいて G チャンネルを補正しても構いません。作業は 5 分足らずで終了しました。

 なお、常に平滑化コマンドが有効とは限りません。変褪色、チャンネル間のレベルの差が大きいような場合の方がうまくいくようで、そうでない場合はかえっておかしくなる場合もあります。

 ART 上での作業については、以下の記事が参考になるかもしれません。

yasuo-ssi.hatenablog.com

 

*1:なお、R, G, B のヒストグラムが全く同じになってしまうとモノクロになってしまいます。似ているけれども微妙に異なっている必要があります。