[お知らせ (2023.2)]
この記事には、以下の改訂版があります。
[2022.9 記述内容一部補訂]
目次
1. 本連載記事の概要
3. 写真補正の原理
4. Bチャンネル再建法による不均等黄変・褪色ネガ写真補正の方法
5-1. Bチャンネル再建法による具体的な補正実施手順 - 準備
5-3. Bチャンネル再建法による具体的な補正実施手順 - GIMPによる作業
6-1. 追加マニュアル補正の実施 - 補正不完全の原因分析と追加補正方針の決定 (本記事)
補足. GIMPの代わりにPhotoshopで不均等黄変画像の編集を行う
補足. 標準的なBチャンネル再建法(+汎用色チャンネルマスク作成ツール)による黄変写真補正過程
6. 追加マニュアル補正の実施
6.1. 補正不完全の原因分析と追加補正方針の決定
以上で、私のオリジナルなBチャンネル補正法技術の一通りの紹介は終わりました。後は、全般的にホワイトバランス調整、色温度調整、そしてトーンカーブ等の色調補正を掛けていけば完成となります。場合によっては追加補正が全く必要がない場合もある一方、、中にはそれだけでは不足し、細かいマニュアル補正が必要なケースが出ます。以下そのような追加補正がどうしても必要なケースを2ケース(6-1-1と6-1-2)に分けて解説します。
6.1.1. 周辺部の青紫化が修正しきれない、または褐色部分が青紫化したまま
まず取り上げるのは、周辺部の青紫化が修正しきれなかったり、褐色部分が青紫化が取り切れないケースです。フィルムによっては、Bチャンネルの損傷が激しいため、黄変部と周辺の青紫化の落差が激しいものがあります。そのため、その落差をある程度少なくするため、事前にフォトレタッチソフトの自動カラー調整やホワイトバランス調整を掛けることをお勧めしているのですが、損傷の仕方によっては、掛けても大して改善されない場合があります。それをそのまま本技法に掛けると、改善はされているはずですが、それでもかなり目立ったままになってしまいます。
※2021.1追記
2021.1にバージョンアップしたImageJ用プラグインから、周辺部青紫化補正のため周辺部分補正レイヤー作成用のマスク素材画像 [ファイル名]_Periphery_Adjst_Mask.tif を出力するように変更すると同時に、この補正をBチャンネル再建補正過程に組み入れています。このファイルを使うと6.1.1.1にあるような人工的なマスクよりも、補正部分とそれ以外の部分が自然に見える周辺補正レイヤーを作れます。詳しい使い方は説明 5-3の こちらをご参照ください。
しかし、周辺部情報抜け補正の原理的な説明として、6.1.1の説明文を残しておきます。
この原因ははっきりしていて、補正Bチャンネルを作成するときの (青紫化改善効果のある) B+Rチャンネル情報の混入量不足です。デフォルトの手法ですとB+R情報の混入は暗部の25もしくは50以下に関してのみ混入するようになっています。しかし青紫化改善が不十分な場合は、50以下では足らず、中暗部領域までB+Rチャンネル情報の混入が必要だからです。
したがってこの対策は、一旦作成したデフォルトの補正画像をさらにレタッチするよりは、もう一度Bチャンネル再建過程に戻り、その際、25 or 50以下の暗部補正(G+R情報混入)レイヤーに加えて、カスタマイズしたG+R情報混入レイヤーを作成して再建Bチャンネルを作り直し、それを基にチャンネル合成をし直すことになります。で、原理的には「以上説明終わり」なのですが、それだと不親切すぎるのでG+R情報混入レイヤーのカスタマイズ法について、もうちょっと解説します。
6.1.1.1. カスタマイズしたG+R情報混入レイヤーの作成法
〇周辺部の青紫化の補正量が不十分な場合
GIMPで新しいレイヤーを作り、そこにG+R混入レイヤーに掛けるマスク画像を、仮補正画像やオリジナル画像を参考にしながら作成します。例えば、画面四方の端の青紫化の改善が不十分な場合、次のようなマスクが考えられるでしょう。
要は四隅のみ混入情報を透過させ、中心にいくにしたがって徐々に不透過になるようなマスクです。このような画像を作ったら、G+R画像のレイヤーにマスクとして貼り付けます。このようにして作ったカスタマイズしたG+R情報混入レイヤーを再建Bチャンネルを作成するときに使います。レイヤーを挿入する位置ですが、おそらく遠景補正レイヤーの上、暗部補正レイヤーの下あたりが適切ではないかと思います。あるいはこの補正レイヤーを一番上にのせて、レイヤーを重ねるモードを[標準]ではなく[比較(暗)]にしてみても良いかもしれません。
〇褐色部分の青紫化の補正が不十分な場合
これはG+R画像上を[色域を選択]を使って、オリジナル画像の褐色部分の中暗域を含んだ画像レイヤーを作ります。例えば下の写真 (1次補正後) に線路が映っています。昔の釣り賭け式電車では、ブレーキは鉄の制輪子を車輪に押し付けるしくみでしたので、この手の車両が走っていた線路には盛大に鉄粉が付着し赤褐色になっていることが普通でした。それに比べるとオリジナル画像よりは改善されはいるものの、まだ微妙に紫がかっているようです。
そこで、G+R画像から中暗域を含んだ部分を、ある程度閾値に幅を持たせた[色域を選択]で選択し、褐色部分補正レイヤーを作っています(下図)。ただし、この補正レイヤーが青い部分にかかってしまうと、青い部分が緑~黄色がかってしまいますので、青い部分にかかる部分はマニュアル作業で削除しています。
この補正レイヤーの挿入位置も、遠景補正レイヤーと暗部補正レイヤーの中間が適切と思われます。
6.1.2. G-B値接近のため補正した色が冴えない
前回書いたように、本補正技法の根本的な問題 (副作用) としてGとB値が近づいてしまうという特徴があります。Bを30%ブレンドしているので、GとB値の大きさが逆転することはめったにないはずですが、しかしGとBの値が離れていなければならない色彩が多い場合は無視することができません。例えば、真っ赤はOKですが、真っ青、真緑はNG。またG > Bの場合でRの値が高い場合は肌色~褐色系統、Rの値が低い場合は黄緑~緑系統、逆にB > Gの場合は、Rの値が高いものから低いものの順にピンク~藤色~青系統あたりが該当しますがこれらも問題になります。ただ、B 30%+ G 70%のレイヤーでは、R+128でマスクをかけていますので、暗い領域では影響が少なく、明るい領域で影響が出ます。ということは例えば、肌色やピンクが特に苦手で、青みの強い紺色等も苦手ということになります。また鮮やかな若葉色などもくすみます。
ですので、このような色彩が画面の重要な役割を果たしている場合は、追加マニュアル補正は必至と言えるでしょう。ただ、失われていたBチャンネルの情報は、正確でないにせよ再建されていますので、トーンカーブ等の色彩調整で何とかなります。
前回、このような追加マニュアル補正が必要な典型例の写真を掲出させていただきました。前回の写真は、以下のブログに補正困難な典型例として掲載されているものを、一旦本ブログで紹介している技法を使って補正を掛けたものでした。以下のブログの筆者のudiさんのご厚意で許可をいただいて掲載しております。これら転載許可を頂いて掲載している画像、ならびにそれを加工した画像については一律転載禁止とさせていただきます。またすべての記事内容についてWebやその他出版物への無断転載・公開は禁止させていただきます。
前回の写真のオリジナルは次のようなものです。フジのHR400を使って撮られた写真のようです。
これを一旦フォトレタッチソフトの自動カラー調整に掛けてからRGB分解すると次のようになりました。
私もかつて褪色の激しい写真で散々トーンカーブ調整に迷った挙句途方に暮れた経験がありますので、おそらくかなりの時間を費やされて苦労されたものと思われます。このサンプルは、Bチャンネルを見ますと激しく損傷しているのが分かります。このようなケースではいくらトーンカーブ調整に時間をかけてトライ&エラーを行っても絶対に適正な結果を得ることができません。因みにGチャンネルが一番しっかりしており、Rチャンネルも若干荒れていますが何とかなる範囲です。そこで、本補正法でBチャンネルを再建した結果が以下の通りです。なお、この写真には遠景域がありませんので、遠景補正レイヤーはかけていません。
若干不自然なところはありますが、圧倒的に情報量が増えています。でこれをR, Gと合わせてチャンネル合成したのが前回の写真だったのです。ですがB, G値の接近のため情報量自体は増えていますが、おかしい結果になっているわけです。ところで健全な色彩ならどのようになっているはずなのでしょうか?やはりudiさんのサイトの写真の中で、おそらく同じお祭りで別のフィルム (Kodacolor) を使った写真 (オリジナル掲載元) と比較しますと次のようなことが分かります。
この比較では、それぞれの写真の、部分部分の色彩のRGB値をスポイトツールで測って示しています。上の色彩が適正な例では、肌色に関して言うと、明部ではGとBの差はそんなにありませんが、中暗部でGとBの差が40~50の差があるのが分かります。しかし補正例ではGとBの差がわずかで、全般的に肌の色がどす黒く見えます。法被の色についても、上はBの値がGの値よりも50程度上なのに、下では、24しか差がありません。そのため法被の色が全般的に黄色みがかって見えます。ですので、この写真の場合の追加補正方針は、肌色のB値を落とすことと、法被の色のB値を上げることになります。これを色域選択とトーンカーブ調整を組み合わせて調整していきます。
6.1.3. 黄変ダメージが他チャンネルにも影響を与えるケース
Bチャンネル再建法では、Bチャンネルのみ修正します。しかし、実際には黄変が他チャンネル、特にGチャンネルにも影響が残り、黄色を取り去った後にマゼンタの変色が明らかになる場合があります。これは黄変が化学的変化であるためです。
これを追加補正で取り去っていく必要があります。この除去方法については次の、6.1.4で論じる、ネガカラーフィルム画像によくみられるマゼンタ被りの除去方法と共通します。
6.1.4. スキャナ等の癖のため、全般的に色被りが残る
ネガカラーフィルムは印画紙を感光させたときに最適な結果が得られるよう調整されています。しかし、それはデジタルデバイスでスキャンを行ったときに必ずしも良好な結果が得られることを意味しません。
Nikonを除く多くのコンシューマー用フィルムスキャナ、および一部の業務用フィルムスキャナは白色LED光源でスキャンを行いますが、これだとネガカラーフィルムで最適な結果を得ることができません。これはデジタルカメラでネガカラーフィルムのネガデュープを行った場合も同様です。フィルムスキャナーの場合、スキャナドライバで調整を掛けているようですが、その結果、全般的に色がマゼンタに寄る傾向が見られることが多いようです。上の6.1.3のサンプルも、黄変に伴うマゼンタ汚れだけではなく、全般的なマゼンタ寄りが同時に発生しています。
さらにフィルムの黄変がひどい場合は、それをスキャナドライバが自動調整して、さらにマゼンタが強くなったり、ひどいときには強い青紫の青被りが見られるケースも見られます。
Bチャンネル再建法で黄変は取れますが、黄変修正後もこのようなデジタルデバイスの癖による色被りは残ります。それを追加補正で修正していく必要があります。
なお、ネガカラーフィルムのデジタルスキャンによくみられるマゼンタ被りの補正方法に関するリンクは以下にあります。
調整方法の詳細は次回です。
---------------------------
以下に追加補正の練習問題があります。